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「遺言より気が楽」な財産相続 家族信託の活用法

財産の相続や分割を円滑に進めるため「家族信託」を活用する家族が目立ってきた。「財産は自宅と老後資金」という中流層にも使い勝手はよい仕組みで、信託銀も対応した商品を提供している。生前に財産の相続人を定めることでトラブルを防ぐ効果も期待できる。

トラブルを防止

「家族がもめないように相続のプランをきちんと練っておきたいが……」。埼玉県に住む山中忠さん(仮名、65)は最近、財産の承継についてよく考える。だが、「遺言を書くのは気が引ける」。そこで注目しているのが「家族信託」だ。

「信託」は、簡単に言うと財産の運用、管理を信頼できる人や専門の機関に任せる仕組みだ。家族信託の場合は財産の管理を任せる人を家族で決めて、財産の承継に活用する。

信託には3つの役割を果たす人が必要だ。まず財産を託す人。信託では「委託者」と呼ばれる。次に財産を託される人や機関である「受託者」。そして信託された財産(信託財産)の運用・管理で利益を得る「受益者」だ。このうち委託者と受益者は同じ人がなることができる。

家族信託のメリットは「委託者と受益者で契約の中身を自由に決められること」(信託契約に詳しい司法書士の山北英仁氏)。信託財産の所有権は委託者から受託者に移る。だが、受託者が委託者と受益者のつなぎ役となり財産管理はもとより、委託者の存命中に望み通りの相続を第三者に受益権を与える形で実現することもできる。つまり遺言代わりにもなるわけだ。

家族信託では通常、親が委託者となり、子が受益者となる。受託者は信託銀行がなったり、家族の誰かが就任したりすることが多い。具体的に見ていこう。

信託銀行が受託者となる家族信託では遺言代わりの機能を持つ信託商品(図A)が人気を集めている。

三菱UFJ信託銀行の「ずっと安心信託」は200万円以上3000万円以下の金融資産を、同行が受託者として運用・管理する。金融資産の使い方は委託者が指定できる。例えば生前は委託者の親が自分の生活費や医療費として使い、死亡後は受益者に指定した子らに残すことができる。

同様の商品は他行にもある。りそな銀行の「マイトラスト 未来安心図」、三井住友信託銀行の「家族おもいやり信託」、三井住友銀行の「家族リレー信託」で、各行それぞれ契約を伸ばしている。

ただし、信託銀が対応していない資産もある。自宅など不動産だ。相続資産の多くは自宅と土地という人は多いだろう。その場合はどうすればよいか。

最近広がっているのが家族の誰かが受託者となる設計だ。司法書士や弁護士らが積極的に提案している。

京都府に住む大浦義夫さん(仮名、78)夫妻がそのケース。夫妻の保有資産は自宅と金融資産で4000万円程度。死亡後は近所に住む次女・貴子さん(仮名、45)に自宅を相続させ、金融資産を既に自宅を持つ長女に残す考えだ。

大浦さん夫妻は最初、相続について遺言を書こうと考えていた。しかし、司法書士と相談して、信託契約にした。「遺言と同じ効果があるのに遺言より気持ちが楽」と大浦さんは語る。

難しい家の相続も、家族信託なら生前に解決できる

大浦さん親子の家族信託は図Bの通り。近くに住む次女・貴子さんが受託者になる。大浦さん夫妻は受益者として自宅に住み続けるが、自宅を売り老人ホームに入る場合、貴子さんに手伝ってもらう計画だ。

夫妻の死後の財産の帰属者に貴子さんを指定すれば、貴子さんが自宅を相続できる。また、自宅を貴子さん名義にしても、夫妻が死亡するまでは受益者であるため、その時点では貴子さんに贈与税はかからない。

大浦さんは金融資産については長女を最終的な帰属者として信託銀行の家族信託を使おうと考えている。

費用などに注意

普及し始めた家族信託だが利用上の注意点もある。まず信託は財産の運用・管理を専門家らに委ねるサービスだけに、コストもかかる。信託財産から一定の割合で毎年支払う「信託報酬」が代表例。その分、資産は年々減るので、事前に確認が必要だ。家族を受託者として不動産を信託する場合、受託者には手続きなどの負担がかかる。親子であっても何がしかの管理報酬の受け渡しをする必要もあるかもしれない。

受託者がきちんと責任を果たしているかもチェックするべきだ。財産を託された者が利益を受ける者のために、全力を尽くすことが信託の大前提だからだ。受託者の義務は細かく決められている。自分の財産と信託財産を区別する「分別管理義務」や「忠実義務」は特に大切だ。受託者が自分の利益のために、信託財産を不適切に扱うことは禁じられている。家族が受託者であってもチェックはおろそかにすべきではない。(編集委員 後藤直久)

[日本経済新聞夕刊2013年7月30日付]

もめない相続 トクする相続

著者:
出版:日本経済新聞出版社
価格:1,575円(税込み)

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