角川、100円の新作電子書籍 安さで読者開拓
米アマゾンや米アップルなどが電子書店を相次ぎ開店したことを受けて、出版社の電子書籍への取り組みが加速している。角川グループホールディングス(GHD)は電子書籍向けに書き下ろした作品を7日に100円で刊行。大胆な値付けで読者獲得を狙う。幻冬舎は小説を複数回に分けて順次配信する新たな試みを開始した。

角川GHDが売り出すノンフィクション作品「Amazonの3.11」は、電子書籍でしか読めない。東日本大震災後に米アマゾン・ドット・コムが行った復興支援活動の舞台裏をノンフィクション作家の星政明氏が描いた。通常紙の書籍制作には約6カ月かかるが、印刷などの工程が不要だったことから2カ月間で発行した。
幻冬舎は1日に小路幸也氏が電子書籍向けに書き下ろした長編小説「旅者の歌」を発売した。5回に分けて配信する手法を初めて採用。読者の関心を呼ぶため1回目は無料にした。2回目以降は315円と買いやすい価格で順次配信し、3月末までに配信を終える。
紙では文庫本や新書などの体裁がある程度決まっているが、電子書籍なら自由なページ数に分割して販売するのは容易。ページ数を減らし安価な値付けで分割配信することで気軽に読み始めてもらい、1人でも多くの読者を取り込もうとの狙いがある。
電子書店だけに作品を出す動きが広がっているのは、電子書籍の利用者が着実に増えているからだ。
講談社は2月22日に発表した2012年11月期の単独決算の会見で、電子書籍の年間売上高が27億円だったことを明らかにした。12年6月から新刊本は原則電子書籍で同時刊行しており、1年で約1000点を電子書店へ提供した。心配された紙の書籍への影響も少なく、売り上げの上積みにつながっているという。13年11月期には電子書籍の売り上げは3割増の35億円になるとみる。
12年度の国内電子書籍市場は713億円にとどまるが、16年度には2千億円に急伸する見通し。拡大する市場をどう取り込むか、出版各社の競争が本格化しそうだ。