東京電力・福島第1原子力発電所の廃炉に向けた作業で日本製のロボットが活躍している。東電と政府から要請を受けた千葉工業大学・未来ロボット技術研究センターは災害救助ロボットの研究で培った技術を生かし、放射能汚染で人が入れない建物内部の調査をする「秘密ミッション」を繰り返している。同センターの古田貴之所長に現状を聞いた。
――福島第1原発にかかわることになった経緯は。
「千葉工業大のロボット『クインス』が福島原発に向かうと報道されたのは昨年の6月20日だが、その前から水面下で動きがあった。経済産業省は事故発生直後に世界の約200のロボットを評価し、最も性能が優れているのが私たちのロボットだと判断していたという。5月に経産省と東電から連絡があり、東電と大学が機密保持契約を結んだ上で秘密のミッションがスタートした」
――事故現場に最初に投入されたのは米国製ロボットでした。
「米アイロボット社の『パックポット』はすでに商品化された製品だった。ラジオコントロール(無線操縦)で動き、マニュアルさえ読めばだれでも使える。戦地で米兵士が偵察や地雷除去に使っており操作が容易で耐久性はあるが、災害救助用ではない。クインスと比べれば登坂力が違う。クインスは60度の傾斜を登れ、福島第1の1~4号機の1階から5階まで探査したのはクインスだけだ。ロボットの国際競技大会であるロボカップのレスキュー部門で優勝した実績がある」
――機密保持契約とは。
「福島第1で得た画像などのデータは東電の許諾がない限り公表しない約束だ。私がここで話す内容はあくまで公開できる範囲内の情報だ」
――どのように作業を進めたのですか。
「東電には(ロボットにかかわる)現地スタッフが10人程度いるが、私たちと繰り返しミーティングを行い、ミーティングと並行してロボットを改良し続けてきた。どこへ行って何を調べるのか、ミッションごとに搭載センサーなどを取り換えてロボットを改造した。操作性を高めるためコントローラー(操縦装置)のソフトも改良を加えた。例えば最初のミッションは、汚染水の水位を測る機器をカメラや放射線計とともにロボットに搭載した。その日に必要な改良をすぐに施して即座にミッションに対応した。明日では遅い。まるで救急医療の現場のようだった」