/

東京駅赤レンガに匠の技 中部の逸品、美も追求

(更新)

自動車産業に代表される中部の「ものづくり」。背景には伝統に基づいた「匠(たくみ)の心」があり、産業界に幅広く引き継がれている。昔の風合いを再現したレンガ、時代劇に出てくるような和ろうそくなど、ユニークな「中部の逸品」を紹介する。

<アカイタイルのレンガタイル>試作重ね大正期の焼きムラ表現 

復元された東京駅丸の内駅舎と工事に使われたレンガタイル

東京駅の丸の内駅舎が10月1日、約5年にわたる復元工事を終えて開業し、1914(大正3)年の創建当時の姿を取り戻した。観光客や通勤客が足を止め、威風堂々とした赤レンガ造りの駅舎を携帯電話やデジタルカメラで撮影していく。

復元の課題は外壁一面に貼る赤い「レンガタイル」の調達だった。同系色のタイルを製造するのは簡単だが、細かな色合いや質感も忠実に再現できなければ「復元」とはいえない。

この難題解決に名乗りを上げたのが壁や床用のタイルを製造するアカイタイル(愛知県常滑市)だった。同社は2003年の日本工業倶楽部会館(東京)を皮切りに、東京中央郵便局(同)やサンフランチェスコ教会(イタリア・ミラノ)の復元を手がけていた。

原料は愛知県武豊町の赤土。通常のタイルはセ氏約1250度の窯で焼くが、明るい赤色を再現するために窯の温度を1200度に下げた。上薬を塗らず、ざらつきを残すなど細かい工夫も重ねた。赤井祐仁社長は「丸3年かけて1万5千枚の試作品を作り、ようやく納得のいくレンガタイルに行き着いた」と話す。

明るい赤を出すため窯の温度を通常より低くするなど工夫をこらした(愛知県常滑市)

色合いが微妙に違う3種類のレンガタイルを計50万枚納入した。3種類が壁面で混ざり合うことで、大正時代のレンガタイルの焼きムラを表現してみせた。

国内のタイル需要は減少している。ガラス張りのビルが増え、戸建て住宅にタイルを使うことも少なくなった。中国産の輸入量も増え、国内メーカーの廃業が相次ぐ。

アカイタイルは歴史的建造物の復元にタイルメーカーとしての活路を見いだす。古い建物は貴重な観光資源となり得るため復元のニーズは底堅い。赤井社長は「歴史の息吹を感じる姿を未来に残していきたい」と話す。(木村慧)

 ▼常滑のタイル 焼き物の一種であるタイルの原材料となるのは長石や陶石など。機械で粉砕した原材料に水や顔料を加えて粉末化したものを、機械で圧力をかけてタイルの形に成型する。その後、上薬を散布し、トンネル状の窯で36~50時間をかけて焼き上げる。常滑市はタイルの産地。2010年の出荷額は63億円で、前年より12%減った。同市が把握しているタイルメーカーは14社で、05年に比べて7社減っている。

<イケックス工業のチタン製スマホケース>好みのデザイン自在に

スマホがぐらつかないよう100分の1ミリの精度で加工する「チタンシェル」

スマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)のケースといえば、1万円を上回るものは少ない。しかし2万5000円を超える高級品もある。自動車部品の金型を製造するイケックス工業(愛知県春日井市)が5月に発売した「チタンシェル」。チタンの板を切り抜き文字を浮かび上がらせる。素材、デザインとも破格のスマホケースだ。

躍動する文字が織り成すデザインは切り絵のよう。顧客は同社の専用サイトで色やデザインに採り入れる文字、記号を選択。デザイン決定から14営業日以内に発送する。

顧客が好みの図柄をメールや電話で指示することもできる。注文に応じて何度もやり取りするため手間がかかり、コストがかさむ。価格は2万5200円。顧客の要望をくみ取り、いかに満足してもらうよう仕上げるか。「自動車業界の厳しい要求に応えるノウハウが生きる」(池上寿光社長)という。

個性豊かなデザインと実用性の両立は容易ではない。端末のカメラ部分などを邪魔しないよう文字の配置を計算した後、ケースとなる板を工作機械で切り抜く。

2枚の板でスマホを挟み込む構造だが、この板をつなぐ支柱に技が凝縮している。精度が悪ければケースの中でスマホがカタカタぐらつく。しかし同社は支柱の高さを100分の1ミリメートルの精度で調整するため、職人が手仕上げしているのだ。

ぐらつきをなくすため、支柱の高さは職人の手で仕上げている

高い強度と軽さを両立できるチタンで、アルミなどよりも高品質な点をアピール。さらに数少ないチタン製ケースの中でもオーダーメードできるのは珍しい。100種以上の端末に対応する。

同社は収入源を増やすために個人向け製品に参入。数百円からあるスマホケースの市場では高額品で受注はネットのみだ。それでも累計で約400件の注文を獲得した。30~40代前半の男性や20代女性で自分にお金をかけられる顧客が購入するという。12月9日まで期間限定でジェイアール名古屋高島屋(名古屋市)で注文を受け付ける。(新沼大)

 ▼スマホケース スマホ本体を包んで傷がつくのを防ぐほか、落下した場合に本体への直接的な衝撃を和らげる。強度の高いポリカーボネート製ハードケースや、柔らかく衝撃を抑えやすいシリコン製、高級感を演出する皮革製もある。市場ではハードケースが5割強で、シリコン製も20%超とみられる。調査会社のシード・プランニング(東京・文京)によるとスマホ用アクセサリー(タブレット端末用含む)の国内市場は2011年で720億円。スマホ市場の成長を追い風に16年には2倍に伸びるという。

<松井本和蝋燭工房の和ろうそく>漆科「ハゼ」から伝統の火

200匁(750グラム)サイズの完成品を手にする松井規有さん(愛知県岡崎市)

和ろうそくに火をともして2、3分。オレンジの炎は次第に大きくなり、揺らめく灯が周りを照らしだす。少しぐらいの風では消えそうにない力強さだ。松井本和蝋燭(ろうそく)工房(愛知県岡崎市)は、1907年の創業当初から作り方や材料を変えず和ろうそくを作り続けている。

工房の3代目、松井規有さん(63)が一本一本手作りする。原料は全て植物由来。長崎県と和歌山県で採れた漆科の植物「ハゼ」の実から取った木ろうと、芯にはイグサの一種を使う。炭火で温めて液状にした木ろうを、数日かけて芯に何度も塗って形をつくり上げていく。

「ほら、バウムクーヘンみたいに年輪が見えるでしょう」。松井さんがろうそくの芯のまわりに見える同心円の模様を指さす。硬化油や米のぬかでできたワックスなど木ろう以外の材料では「年輪」がきれいに出ない。本物の和ろうそくを見分けるポイントという。

「昔からの材料を使って手作業で丹念に作ったものが本物の和ろうそく」と製法にこだわる。全国的には硬化油や大量生産できる型を使った和ろうそくが大半で、伝統の素材を使って手作業で作るのは少数派になったという。

何十回とろうを塗り重ね、かんなで形を整え、さらに塗る。仕上げは和歌山県産の高級木ろうを使う。すべて手作業だ

長さ約30センチメートルの特大サイズ、200匁(もんめ、約750グラム)のろうそくは主にお祭りで使われる。価格は1本2万円以上。普段はもう少し小さなサイズのものをお寺や問屋に販売している。

松井さんは伝統を守る一方、最新の科学で和ろうそくの魅力を解明する活動にも熱心。燃焼の仕組みを大学と共同研究している。最近ではキラキラ光るビーズ材を付けた製品など、現代のインテリアに合わせた製品作りにも力を入れる。

工房では和ろうそく作りの様子も公開。松井さんによる伝統の技を間近で見ることができる。(若杉朋子)

 ▼和ろうそく 江戸時代に木ろうの生産が伸びて利用が広まったといわれている。愛知県や京都府など各地域の産業の一つだったが、明治時代以降に西洋ろうそくが普及し、工房や問屋は次第に減っていった。岡崎市で作る和ろうそくは「三州岡崎和ろうそく」として県の郷土工芸品に指定されている。総務省の調査では、愛知県はお寺など仏教の事業所数が全国トップ。このため和ろうそくのほか「三河仏壇」や「岡崎石工品」など関連する産業が盛んとなったという。

<長尾包丁製作所の「天味寿楽」>切れ味鋭く美しく

「ダマスカス」と呼ばれる独特の模様を持つ包丁「天味寿楽」(岐阜県関市)

磨き込まれた包丁の刃。近づいて見ると、きめ細かい波紋のような模様が浮かび上がる。紙に刃先をあてると一瞬ですっと紙片が切り離され、床に舞った。刃物の産地、岐阜県関市にある従業員5人の長尾包丁製作所。美しさと切れ味を兼ね備えた包丁を作り、国内外で高い評価を得ている。

「姿だけの包丁なら誰でもできる。気持ちを注ぎ込まないといい切れ味が出てこない」。創業者の長尾太社長(75)は力を込める。20代後半で家具職人から転身し刃物の研磨店を開業。次第に仕事の幅を広げ、一代で長尾包丁を築いた。

その技を込めたのが、プロの料理人向け包丁「天味寿楽(てんみじゅらく)」シリーズ。価格は7000~4万3000円。著名な刃物産地を抱えるドイツでも販売する。長尾社長は「美しさ、切れ味、さびにくさ。外国製品と比べものにならない」と自信をみせる。

中でも表面に波紋の模様が付いた「ダマスカス包丁」は美しさでも有名。異なる金属を片面15層ずつ重ねた鋼を使う。特製のハンマーでたたいた後に鉄粉を吹き付けることで、一本一本異なり、同じものは再現できない模様を浮き上がらせる。

炉で800度に熱した鋼を凹凸がある特製のハンマーでたたいて加工する

炉で800度に熱した鋼を人肌程度の水に素早く投入。さらに180度の油で1時間煮込むことで刃に粘りを出す。完成に要する時間は1カ月~1年という。

約40年かけて実現した、日本刀と同じ製法の天味寿楽も扱う。特別に調合した土の粉を刀身に塗る「土置き」という技法を使う。焼き入れの際に割れてしまう困難を克服。切れ味や美しさに加え、硬いのに研ぎやすく仕上がるという。

現在も新たな高みを目指して試作を続ける。長尾社長は「ここまでくると完成がない。とても奥深い工程だからこそ面白みがある」。最高の刃物を求めて鋼に向かい続ける。(小川知世)

 ▼関の刃物 鎌倉末期から南北朝時代に刀匠が住み着いて刀作りが始まり、室町時代には孫六兼元など有名な刀匠を輩出。その後、刀の需要減少とともに家庭用刃物の生産へ移った。現在、包丁では全国の出荷額の約半分を関市が占める。関市によると、2010年の刃物の製造品出荷額は約319億円で、このうち包丁は約49億円。4分の1ほどが輸出されているという。輸入品に押されて出荷額は減少が続くが、海外では高級包丁として一定の需要があるという。

<葛利毛織工業のスーツ生地>昔の製法で質高く新鮮 

80年前から生地を織り続ける織機(愛知県一宮市)

ハリがあり手織りに近い風合いのスーツ生地。葛利毛織工業(愛知県一宮市)が80年前から使っている低速の織機で作り出している。横糸を通す「シャットル」という道具を使う機械が織りなす生地は、海外高級ブランドにも使用されている。

今年で創業100周年の同社が毛織りに進出したのは1932年。当時導入した織機を今も現役で使う。1日の生産量が15メートルと現代の高速織機の6分の1程度だ。たて糸を上下に開く量が大きく、シャットルで往復させる横糸としっかりとからまる。結果、繊維を傷めることなくハリ・コシのある生地になる。

生地の柄を決めるたて糸を通す「綜光(そうこう)」を集めた枠を24枚並べることができるのも特徴。通常の織機の2~3倍あり、複雑な柄ができる。使い込まれた8台の織機は柄物が得意など、それぞれに特性があるという。

生地を反物で購入する場合、1メートル当たりの価格は3千~4万円と通常の4倍前後だ。高級テーラーの間で高評価を得ており、「DOMINX」と葛利毛織のブランドで指定すれば仕立ててもらえるという。

1日最長15メートルしか織れないが、ウールなどの天然素材の特徴を生かす膨らみのある織り方ができる

同社は戦後の繊維流通の構造変化に乗り遅れ、織機の更新による大量生産はできなかった。しかし、約6年前に転機が訪れた。来日していた海外ブランドのバイヤーの目に留まったのだ。英国にも同社のような古い織機は既になく、品質がよいと評価されたという。その後商談も入り始めた。

同社には創業以来、5万種類のデザインが残されており、生地のサンプルも現存していることが強み。60年代の着物のようなスーツ地など、今では貴重ともいえる柄が多数残っており、デザイナーの要望に応えやすい。

葛谷聡専務は「日本のデザイナーと組んで、メード・イン・ジャパンで海外でも勝負してみたい」と話す。技術伝承などにも力を入れながら、長く尾州産地で培ってきた実力をさらにアピールしていく。(岩野孝祐)

 ▼尾州産地 愛知県西部の尾張地域は古くから繊維産業が盛んだったが、明治時代の後半から毛織物が大きなウエートを占めるようになった。一宮市の統計によると、織物業に代表される繊維工業の出荷額は、1970年ごろまで全産業の9割前後を占めていた。ただ、海外製品との競争激化などで2010年の繊維工業の出荷額は888億円とピークの88年に比べ8割減少。素材の展示会を年2回東京で開催するなど、産地活性化の取り組みも続いている。

初割ですべての記事が読み放題
今なら2カ月無料!

関連企業・業界

企業:

セレクション

トレンドウオッチ

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン