2019年5月25日(土)

「スター農家」パリ料理界で脚光 食材選びに日本流

2011/12/4付
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華やかなスター料理人を輩出する食の都パリで、腕利きシェフに優れた食材を提供する「スター農家」や「スター精肉店」が登場し脚光を浴びている。フランス人がこれまで目にとめなかった「食材」に注目し始めたのは、素材にこだわる日本の食文化の影響がある。

日本の大根を栽培する山下氏(パリ近郊)

日本の大根を栽培する山下氏(パリ近郊)

パリの有名シェフたちが今、カブのことを話題にすれば、まず「ヤマシタ」の名前が挙がる。星付きレストランの間で奪い合いになっている高品質の野菜を生産しているのは、パリ近郊の日本人農家、山下朝史さんだ。

パリで予約を取るのが最も難しいとされる三つ星レストラン「アストランス」。ここで華やかに盛りつけられる冬野菜は山下農園でとれたもの。山下さんが季節の野菜を直接納入し、シェフのパスカルさんに調理法を提案する。老舗トゥールダルジャンや同ムーリスの野菜料理も山下農園が支えている。カブ、ネギ、大根、トマト、ホウレンソウ。農園で栽培する野菜の多くは日本で開発された品種だ。

山下さんは「シェフの考えを聞き、それに応えるような野菜を丁寧につくる。秘訣はない」と話す。農場は100メートル四方にも満たない。だが丹精込めて少量生産される40~50種の野菜は、仏の大量生産品種とは味も香りも異なり、パリのシェフを驚かせている。

パリによくある路上市場。その一角に構える小さな青果店「ジョエル・ティエボー」は格段に長い行列がいつもできる。高級レストラン御用達の店ティエボーの名は、ヤマシタと並ぶパリの野菜のブランドだ。

店で扱うのはティエボーさんがパリ郊外の畑で自ら耕し育てた野菜。80種の野菜を栽培するティエボーさんは「天候、土壌、植物の状態、野菜作りに大切なのは観察と分析」と語る。シェフの意見を聞き栽培方法を工夫するやり方は山下さんと共通する。

テレビの料理番組で優勝した天才料理少年サルファティさんもティエボーで葉野菜を買っていた。「野菜はここと決めている。他店と違って味が濃いから好き」という。

「スターだって? 最近は料理人だけでなく業者まで祭り上げられているようだね」。多くの有名星付きレストランのシェフが素材を買い求めるパリの精肉店「ユーゴー・デノワイエ」の店主、デノワイエさんは笑う。

畜産が盛んな地方の出身のデノワイエさんは15歳から見習いを始めた。8年間は仏中を歩き回り「良い肉を手に入れるためにはそれなりの金額を払う」という考えを理解してくれる畜産農家を独自に開拓した。

質の良い牛だけを直接買い付け、技能の高い食肉処理業者で加工する。肉の味を良くする熟成にも独自の技術がある。「料理人が食材に高い要求をしてくるから質も向上してきたね」。デノワイエさんの著書はベストセラーになっている。

仏のシェフや市民が食材に興味を持ち、農家や青果店などに注目するようになった背景について、料理ジャーナリストのジョスリーヌ・リゴさんは「日本の影響が大きい」と解説する。ソースを重視するフランス人は、これまで食材の質や鮮度にはあまりこだわらなかった。

素材の持ち味をいかし、食材を厳選する調理法は、仏の高級レストランの厨房に入った日本人シェフが広めた新しいやり方とされる。ブームが続く日本の食文化はすしやラーメンにとどまらず、仏料理の調理法をも変えている。(パリ=古谷茂久)

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