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次世代路面電車は「架線レス」 電池車両が商用段階に

大容量の蓄電池を積んで架線による給電なしで市街地を走ることができる次世代型の路面電車が実用段階に入った。すでに近畿車両川崎重工業など車両メーカーが高性能の電池を搭載した路面電車を開発し、国内外の営業路線で実証試験やデモンストレーション走行に乗り出している。都市部では温暖化ガス排出削減や景観維持、安全性の観点から路面電車の導入機運が高まっている。近い将来、日本の得意技術を生かした新型電車が世界の街中をスイスイ走る姿が見られるかもしれない。

近畿車両が開発したのは新型低床路面電車「ameriTRAM」。車内は広々とした段差の無い空間が広がるが、座席の下には左右12個ずつ、計24個のGSユアサ製のリチウムイオン電池が搭載してある。ここに蓄電することで架線から給電しなくても市街地を約10キロメートル走ることができる。従来の「電車」のイメージを大きく変える車両で、幕張メッセ(千葉市)で開催中の「鉄道技術展」では、その一部を実物大で再現している。

市街地では景観と安全性を確保する観点から電力供給用の「架線」が問題となることが多い。「(米国ワシントンの)ホワイトハウスの前を横切って架線を張るわけにいかないし、台風で切れたら通行人や近隣住人に危険も生じる」(近畿車両の車両事業本部、南井健治・国内営業部長)。電線や電話線の地中化は進んだが、路面電車の架線は車両への給電が必要な限りどうしても必要だった。

今回の新型車両はその壁を打ち破り、制約が多い繁華街などにも路線を延ばすことができる。屋外設備が少なくなれば、それだけ維持コストが減るという利点もある。

すでに商用化できる段階にある。昨年末には米国で実際の営業路線を使ったデモンストレーションも始まった。ノースカロライナ州シャーロットを皮切りに、今年5~7月にはダラス(テキサス州)の街を走行。実際の採用を目指して北米を軸に営業活動を進めているという。

車両の最高速度は時速80キロメートル。郊外では専用軌道を高速で走りながら充電し、ダウンタウンでは架線無しに同40キロ前後で走行するといったモデルを想定している。

川崎重工業も「架線レス」を実現した新型路面電車「SWIMO」を出展した。同社の車両は、自社のニッケル水素電池「ギガセル」を16台搭載。都市部を給電無しに10キロメートルは走れる性能を確保した。

充電に必要な時間はわずか5分ほど。折り返し地点などの停留所で充電し、走行する区間には架線が一切なしという路線も実現可能という。播磨工場(兵庫県播磨町)内での試験走行を経て、2007年から08年にかけ、札幌市交通局の路線で低温や積雪など厳しい環境下の実証試験も終えた。

 車両上部に搭載した自社開発の制御装置で電気の充電・放電を効率的に管理する。減速時にモーターを使って発電する回生ブレーキからの電気を蓄電し、加速時に電気が足りなければ放電する。効率的に電気をやりくりするため、「ハイブリッド自動車と同様に、加速や減速を繰り返す市街地の走行に特に向いている」(川重の車両カンパニー、高坂正人機器・工事営業課長)。

川重はかつては路面電車の車両を生産していたが、近年増えた低床車両は手掛けていなかった。新型車両では架線を引くコストがかからないことなどを強みに、新規路線の敷設や延長といった需要を取り込む考えだ。日本国内での採用に向け、「全く新しい分野の車両という位置づけで売り込んでいる」(同課長)。

日本では明治後半から昭和初期にかけて大都市圏で路面電車の整備が進展。しかし車の普及に伴う交通渋滞や安全性確保を理由に、高度経済成長期の1960~70年代には路面電車の廃止が相次いだ。

再び注目され始めたのは1990年代後半から。地方の中心市街地の活性化や温暖化ガスの排出削減、バリアフリーのなどの利点があるため、世界で新型のLRT(次世代路面電車)を見直そうという動きが起き、国内でも導入を検討する自治体が出始めた。

「架線レス」の路面電車はそうした流れを加速させる可能性を秘めている。景観維持や安全性、低い設置コストなど様々な強みを持つ日本発の新型車両が、世界の街中の風景を変える時が遠からず訪れるかもしれない。

(電子報道部 宮坂正太郎)

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