2019年9月17日(火)

グーグルの提案はネット中立性推進派への裏切りか?
ITジャーナリスト 小池 良次

2010/8/10 20:05
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米国時間の8月9日午後1時すぎ、米グーグルは米通信会社2位のベライゾン・コミュニケーションズと共同で、「インターネットのオープン性に向けた政策提案」と題する文書を発表した。これまでグーグルは、端末やアプリケーションの差別的待遇の禁止や公平なユーザーアクセスなどを求めて「ネットワーク中立性」の推進を主張し、通信会社やCATV会社などブロードバンド事業者と数年にわたって対立してきた。ところが、米連邦通信委員会(FCC)が7月15日からブロードバンド規制強化にかかわる意見募集をしているさなかにベライゾンと手を握り、FCCに具体的な妥協点を示す方向にかじを切った。これに対してネット中立性推進派からは「グーグルの裏切り行為」といった厳しい批判が寄せられている。

グーグルが通信事業者に大きな譲歩

米グーグルが「Public Policy Blog」で公開した提案文書

米グーグルが「Public Policy Blog」で公開した提案文書

グーグルとベライゾンがネットワーク中立性問題で合意に達したという観測記事は、8月3日ころから業界誌だけでなくウォール・ストリート・ジャーナルやニューヨーク・タイムズなどの大手紙も報じていた。しかし、内容については確たる記事がなく憶測にとどまっていたため、業界には混乱が広がっていた。

9日に両社が発表した共同提案は、「機器やアプリケーションの自由」「ネットワーク運営の透明性確保」など9項目を要望している。このうち「ブロードバンドに接続する機器や使用するアプリケーションを制限しない」「ネットコンテンツを差別しない」「ブロードバンドネットワーク運用の透明性を確保する」などは、以前からグーグルを含めたネット中立性推進派が主張してきたものだ。

一方、「セキュリティー確保や混雑回避、目的外での使用の防止などを実現するネットワークマネジメント」や「他社との差異化を狙ったオンラインサービスの提供」といった部分は、ベライゾンをはじめとするブロードバンド事業者が主張してきた。つまりグーグルとベライゾンの共同提案は、両陣営の主張が相乗り状態になっているのだ。

なかでも最も注目されるのは、携帯電話網を使ったブロードバンドサービスと規制の適用方法の2点だ。前者については、「特殊性があり、発展途上である」との理由から、ネットワーク運用の透明性確保だけを義務付けるよう主張した。これは、携帯端末やアプリケーションを通信会社が厳しくコントロールする現状をグーグルが認めたことを意味する。ネット中立性推進派はこれまでモバイルブロードバンドの開放を主張していただけに、態度を変えたグーグルに対する風当たりは強くなるだろう。

ネット推進派団体Progressive Change Campaign Committeeの共同設立者であるアダム・グリーン氏は、「グーグルは悪魔と化した」と題するブログを発表。モバイルブロードバンドにおけるグーグルの態度を厳しく批判した。

両社は規制の適用方法についても、ブロードバンド規制の強化を支持しつつ「個別裁定」を求めている。一般的な通信規制では、通信事業者に順法を証明するリポートの提出を義務づけたり、定期的な立ち入り検査の実施を定めたりしている。しかし、提案書では「消費者を不当なブロードバンドサービスから守る」という観点を重視し、FCCは被害者からの訴えをベースに個別に判断する方法を採用するべきだと提案した。これもブロードバンド事業者が強く求めていた内容である。グーグルはこの点でもブロードバンド事業者の主張に大きく譲歩したと言える。

妥協点を探りつつFCCに圧力かける狙いか

共同提案書の内容を吟味すると、グーグルとベライゾンが互いに大きく譲歩して、提案書をまとめた様子が浮かび上がってくる。では、なぜ両社はそこまでする必要があったのか。背景には米国のネットワーク中立性の議論が平行線をたどり、両陣営に譲歩する姿勢が見えなかったという事情がある。

両陣営の力関係が拮抗(きっこう)するなか、共和党前政権は大手ブロードバンド事業者寄りの通信・放送行政を進め、ネットワーク中立性の法制化には消極的に対応するのが基本だった。その状況はオバマ民主党政権で逆転し、中立性推進派のジュリアス・ゲナコウスキーFCC委員長は強引とも言えるほどの勢いでオープン化政策を推進しようとした。

しかし、10日掲載のコラムで書いたとおり、ネットワーク中立性議論を足がかりにブロードバンド規制の強化までを狙うゲナコウスキー委員長は、ブロードバンド事業者から激しい反発を受けている。大手事業者やロビー団体に呼びかけて非公開のミーティングを繰り返すなど、なりふり構わぬ行動に出た委員長に、大手各社は振り回されるばかりだった。

結局グーグルとベライゾンの提案は、混乱を収拾して議論よりも具体的な進展を求めるとともに、FCCの体面を保ちつつ、ブロードバンド規制の現実的な妥協点を示すことが狙いだったと言える。そのために批判は覚悟のうえであえて共同提案というかたちをとり、FCCへの圧力を強めたわけだ。個別裁定といった規制の適用手段にまで踏み込んだのは、そうした背景があるからだろう。

グーグルとベライゾンという二大企業からの提案をFCC委員長はどう受け止めるのだろうか。共同提案に納得できない推進派および反対派は、どのような意見をFCCにぶつけてくるのか。FCCによるブロードバンド規制強化にかかわる意見募集の締め切り日として設定された8月12日は、目前に迫っている。

小池良次(Koike Ryoji)
 米国のインターネット、通信業界を専門とするジャーナリストおよびリサーチャー。88年に渡米、93年からフリーランスジャーナリストとして活動している。サンフランシスコ郊外在住。主な著書に「クラウド」(インプレスr&d)など。
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