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松井証券・松井社長「個人のリスク投資、重要さ再認識を」

株式市場「ほとんど開店休業」

東日本大震災や欧州債務危機などに見舞われた2011年も残すところあとわずか。株式市場では日経平均株価が昨年末から15%下がり、2年連続の下落が濃厚だ。今年の株式市場で特徴的なのは、後半に顕著となった薄商い。東証1部の11月の1日平均売買代金は9561億円と1兆円を割り込み、03年12月以来8年ぶりの低水準となった。市場の活力低下の背景や日本経済の見通しなどをネット証券大手、松井証券の松井道夫社長に聞いた。

――株式市場の売買低迷が続いています。

「欧州を中心に経済の不確実性が高まっている。どれだけ経済が落ち込むのか、そのタイミングと度合いが分からないため、投資家はじっとしているという状況だ」

「日本固有の問題もある。簡単に言うと、資本主義を否定するような大きなムードが醸成されている。自民党政権末期の頃からそうだが、強烈なデフレのなか、そういったムードが日本を支配し、民主党政権になってその色合いがさらに濃くなってきている。『貯蓄から投資へ』と言いながら、制度面ではそれを否定するようなことばかりする。株式の配当に対して、まったく性質が異なる預金金利と同じように課税するなんて、個人が株主になってはいけないと言っているようなもの。こういった日本固有の資本市場に対する見方が株式売買の活性化を妨げている」

――株価の低迷も続いています。株式への投資をためらう個人も多いのでは。

「株の低迷というのは長期で持った場合の話。精緻にみれば、株価は上下していることを忘れてはならない。いわゆる投資か投機かというのは極めて日本的な議論だ。確かに、過去20年間株を持っていたら、右肩下がり。だが、長い期間株を持ち続けることを株式投資だと決めつけることには疑問もある」

「株式市場で最もリスクを取るのは個人投資家だ。機関投資家は他人のお金を預かって運用しているにすぎない。その個人がリスクを取らないと資本主義は成り立たないということをみな考えないといけない」

――個人の力を解放することが日本や日本の株式市場の復活に必要であると。

「ある英国人が私に言ったことがとても印象に残っている。彼が言うには、これはとても哲学的な表現になるが、日本人はとても自律的な存在だ。他律的な人間はすぐに人のせいにし、責任も取らないが、自律的な人間は違うと。私はその自律的な人間にしか自由はないと考えている。自由が生まれれば、イノベーションにつながる。その意味で、イノベーションの芽が日本にはあると思っている」

「井原西鶴の『日本永代蔵』によると、『倹約十両、もうけ百両、見切り千両』だ。さらに、その上には『無欲万両』というのがある。世の中が変われば、もうけの手段なんて変わる。だから、もうけ百両なんて追っていてもしようがない。必ず、見切り千両が必要になる。その上の無欲というのは字義通り無欲というものではなく、私は大義だと思っている。大義というのはそんなに大それたものではなく、自らの頭の中で価値を構築してそれを信じてイノベーションを起こすことだ」

「足元で日本企業は韓国や中国の企業の追い上げを受けているが、焦る必要はまったくない。韓国や中国の企業は、まだまねごとをしているだけで、もうけ百両の世界から脱していない。日本企業は新しい価値観のもとで、まず見切り千両をすればいい。その延長線上に無欲万両がある。だから、私は決して日本を悲観はしていない」

――同一の保証金で1日に何度でも回転売買を可能にする「即時決済信用取引」を導入しました。

「10月11日に開始したが、まだいろんな欠陥がある。一番の欠陥は、当初から予想されたとおり(松井証券内で売買注文を付け合わせるため)流動性の問題だ。ただし考え方自体は間違っていない。オンラインビジネスで手数料競争を延々とやったところで、未来がないことは明らか。即時決済については改良を重ねてしつこくやるつもりだ」

――デイトレーダーという超短期売買が株式市場で増えることにはデメリットもあるのでは。

「デイトレーダーは少なくとも市場に流動性を供給するという役割は果たしている。月に100回以上取引するデイトレーダーと月に10回以上取引する準デイトレーダーを合計すると、当社での売買の9割以上を占める計算になる。健全という言い方はしたくはないけれども、彼らは自らのリスクで取引をしている。それを良い、悪いという筋合いのものではない」

「ただ、1日に何度も違う銘柄を取引するデイトレーダーが大きく左右する個人投資家の売買動向を見て、議論をしてもあまり意味がないのも事実。全国に400万~500万人いると言われる一般の株式投資家はほとんど動いていない。当社の口座の実態をみても、多くの預かり資産は固定化されており、回転していない。長期で株を持ってきた人たちは大きな損失を抱えて身動きがとれない状態。たまに市場に入ってきても、損失を解消する売りを出して、しばらくは新規に持ち高を形成することはせずに様子見を決め込む。その結果が、今の東証1部で1日1兆円を下回る売買代金だ。その意味で、株式市場はほとんど『開店休業』に近い状態が続いている」

――一般の株式投資家が株式市場に再び入ってくるきっかけは何になるでしょうか。

「今の状態が未来永劫(えいごう)続くはずはない。きっかけはよく分からないが、考えられるとしたらおそらく日本国債だろう。国債がすぐに暴落すると言うつもりはないが、団塊の世代などで銀行預金の取り崩しなどが続けば、あるタイミングで国のファイナンスができなくなる可能性がある。国が企業や個人のお金が外に逃げるようなことばかりしていることも気がかりだ」

――もし国債を買ってくれと言われたら、買いますか。

「買うわけがない。当社には戦前、国債を買って全部なくした経験がある。うちの蔵には今、額面500円の大日本帝国国債が輪ゴムで束になって保管されている。500円といったら、当時は家が1軒買えるお金。それが束で全部無価値になった。国債は安全資産ではない。二度同じことをするわけにはいかない」

――来年の日本経済をどうみますか。

「日本経済はどん詰まりの状況がずっと続いており、そろそろ限界まで来ているように感じる。山の向こうに行くためにはトンネルに入る必要があるが、これまでの日本はトンネルは暗くて怖いからと、どうにか迂回(うかい)しようとしてきた。そのうちに迷って谷底に落ちてしまったというのが日本経済の現状だ。トンネルに入りさえすれば、いつかは必ず抜けて青空を見ることができる。抜本的な構造改革を進める覚悟を決めれば、日本経済復活の可能性が見えてくる。来年あたりにはいよいよトンネルに入らざるを得ない局面が来るだろう。まさしく見切り千両の世界に国家ベースで入る。そういう年になるだろう」

――株式市場がその背中を押しますか。

「それは市場と政府、どっちが先かという議論でまったく意味がない。だが、株式市場はあくまでも鏡にすぎない。市場がなんらかのトリガーを引くということはないだろう」

(聞き手は佐藤俊簡)

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