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日経平均に大勝ち 「最強の投資助言者」街角景気

編集委員 田村正之

参議院選挙という一大イベントが終わり、投資家の目は景気や業績というファンダメンタルズ(基礎的条件)に少しずつ戻っていきそうだ。プロの間で「実は最強の投資助言者」との評価もある内閣府の「景気ウォッチャー調査」(街角景気調査)を軸に、国内景気と日本株の行方を考える。

街角景気はタクシー運転手や飲食店経営者などに毎月、「景気の肌感覚」を聞く調査。毎月6営業日目に、前月分の数字が発表になる。グラフAでは一定のルールで街角景気に基づいて投資した場合の成績を試算してみた。

街角景気の現状指数が前月を1ポイント以上上回れば、指数連動型投信などを使って発表日の終値で日経平均を買い、逆に1ポイント以上下回れば売ることを繰り返せばどうなっただろう(ちなみに「前月比1ポイント以上」というのは、街角景気において統計上、局面変化の判断で「有意」とされる値)。

街角景気調査が始まった2000年以降、日経平均株価は3割弱低い水準だが、街角景気に従って投資していれば資産は約65%増。騰落率の差は9割強にも達する。

00年からのIT(情報技術)バブル崩壊、07年以降の金融危機などの場面でいち早く「売りサイン」が出たために傷を浅くでき、逆に回復期に早めに「買いサイン」が出ることが多かったためだ。

 例えば09年2月。前年9月のリーマン・ショック後、様々な景気指標や株価は急降下中。このまま恐慌に突入するのではないかという恐怖が市場を覆っていた。しかし街角景気は2月に10カ月ぶりに前月を上回って好転した(グラフB)。

当時の日本経済新聞のコラム「大機小機」はこれを「市場の底入れは意外に早いかも」と見る材料の一つとして指摘。結果的にこの判断は正しかった。

最近の買いサインは12年11月調査(40.0へ1.0ポイント改善)。発表日(12月10日)の日経平均は9000円台半ばだった。その後の売りサインは53.0へ高水準ながらも2.7ポイントの大幅下落となった13年6月調査。発表日の7月8日の日経平均は1万4000円強で、この間に大幅な利食いが実現した。

実はこのように投資に直接使える景気指標は例外的だ。株価はもともと半年くらい景気に先行しがち。しかし逆に多くの景気指標は集計から発表まで数カ月かかるため、通常、景気指標が出た時点では、株価はすでに動いてしまっている。

 一方「街角景気調査は株価にほぼ連動し、時には先行性すら見られる」と話すのは、同調査の開発にも携わった三井住友アセットマネジメントのチーフエコノミスト、宅森昭吉氏だ。だからこそ「投資に直接役立つ統計としてはベスト」(三菱UFJモルガン・スタンレー証券の藤戸則弘シニア投資ストラテジスト)とプロの間でも評価が多い。

この特徴は消費や製造の現場にいる人の「肌感覚」を聞くユニークな調査方法に加え、発表までの時間差が極めて短いことから生まれている。

回答者は2050人。構成は約7割が、タクシー運転手、百貨店やコンビニ、家電量販店、スナック店長など、多くの消費者と接する家計動向関連。約2割が受注の動きなどがわかる企業動向関連。残り1割がハローワークや学校の就職担当など雇用関連だ。

宅森氏は「景気動向をきちんと把握する能力と意欲があり、的確に説明できる人が厳選されている」と話す。

「現状」と「先行き」の方向感などを5段階で聞いて指数化、50が水準判断の分かれ目となる。地域ごとの動向もわかる。調査は月末に電話とインターネットなどで行われ、翌月の第6営業日に発表される。月次の政府統計の中では極めて速い。

大手証券の国際市場分析部長などを経て現在は投資評論家の馬渕治好ブーケ・ド・フルーレット代表も街角景気の有用性について「ドラマの『踊る大捜査線』ではないが、経済も『事件は現場で起きている』。街角景気は現場の声をダイレクトに拾う」と指摘する。

街角景気調査は内閣府のホームページで誰でも見られる。注目したいのは「現状」「先行き」の指数と同時に発表される回答者のコメント。「現場の生の声」が満載だからだ。

 例えばリーマン後の回復をいち早く示した09年2月調査でも、潮目の変化が感じられるコメントも垣間見えていた。

「来場者は増えていないが成約率は上がってきた」(近畿=住宅販売会社)、「2、3カ月後からハイブリッド車の部品が増加する予定で、仕事量を下支えする」(北関東=一般機械器具製造業)などだ。投資だけでなくビジネスの参考情報としても使えそうだ。

ただしグラフAは街角景気が投資に参考になるという一つの象徴例にすぎない。いくら街角調査が投資に使えるといっても、機械的に使えばいいというほど投資は甘くない。

例えば10年からの数年間のように、株価が一定範囲を行き来するような局面は成功しづらく、この期間は逆に日経平均に負けている。天候など特殊要因で一時的に間違った判断を示すこともあるし、際だった先行性を毎回示すとも限らない。

重要なのは「春から夏は高い数値が、秋は逆に悪い数値が出やすいという季節性が見られる」(宅森氏)こと。内閣府はこうした季節性を考慮し、8月発表分からは新たに季節調整後の数値も同時発表を始める。

宅森氏が独自に季節調整をかけて計算したところ、直近の買いサインは昨年の8月。生の数字での買いサイン(12月発表分)よりも早い時期により安値で買えたことになる。街角景気は今後、季節調整値の発表でより有用性を増しそうだ。

ちなみに7月8日発表の6月調査が大幅悪化となったことはどう見ればいいのだろう。宅森氏は「春先に数値が高かった反動の側面もあるし、下落といっても水準は50を超えているのであまり心配はない」とみる。

 もちろん景気は様々な指標を総合して考えたい。馬渕氏は「全体的には景気は改善に向かっている」としながらも厚労省の「毎月勤労統計調査」のデータが「少し心配」という。

失業率が低下している一方で残業時間が増えていないからだ。「雇用を増やしてはみたものの、それに見合う仕事量の増大が生じていないのかもしれない」(馬渕氏)

雇用増もパートタイム労働者が中心で、一般労働者(正社員等)の雇用は抑制気味。この点では、パートも正社員も増えていたリーマン・ショック前の状況より、ITバブル崩壊後の景気回復期(02年から)に状況が近い。当時は「回復感なき景気回復」といわれていた。

馬渕氏は「正社員の賃金が増えていかないと景気の本格回復につながりにくい。街角景気調査も水準は高いものの伸び悩みだし、外需も米国はいいが新興国はよくない。まとめると『めでたさも中くらい』というのが景気の現状ではないか」とみる。

街角景気は今後どんな方向を示すのだろう。7月発表の6月分の悪化の要因としてあげられたのは「梅雨入りに伴う客足の鈍化や株価や為替の変動」だったが、8月発表の7月分ではこうした要因は薄れそう。宅森氏は「7月分調査は季節的に数字が高くなりやすい。猛暑効果や早めの梅雨明けの好影響もあり、街角景気の現状指数は再び上昇に転じるのではないか」と予想する。

7月発表の6月分で出た売りサインでこれまでの上昇分をいったん利益確定したうえで、8月に新たにすぐ買いサインが出て投資を始めるという展開になるのかもしれない。

ただし株価上昇が再び急ピッチになる保証はない。馬渕氏は「5月前半までの株価上昇速度は景気実態からみて速すぎた。今後、途中で若干の調整をはさみながら年内に1万6000円程度というのが、『めでたさも中くらい』を反映した株価水準ではないか」と話している。

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