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「子どもNISA」で変わるか 相続50兆円の潮流

編集委員 田村正之

いよいよ学校は夏休み。かわいい孫の帰省を楽しみにする祖父母も多そうだ。孫への愛情が大きな支えになりそうなのが、2016年にも創設と報じられる「子ども版少額投資非課税制度(NISA)」。株式市場の意外な底支え役になるかもしれない。

相続で移転する金額は52兆円

野村資本市場研究所の宮本佐知子氏の試算では、相続で子孫へ移転する金額は現在、年に約52兆円(相続税がかからない人も含めた全体の移転額、グラフA)。農業出荷額(約8兆6000億円)の約6倍という巨額さであり、今後も死亡者の増加などでさらに増えるとみられる。

15年からの相続増税(課税遺産から差し引ける基礎控除が大きく減る)を見越してトレンドになりつつあるのが生前贈与。13年の贈与税の申告者は49万1000人と前年比13%増で、5年前と比べると4割も増えた。こちらも今後もさらに拡大が見込まれる。

モデルは英国のジュニアISA

株式市場が「子どもNISA」に期待するのは、まさにこの生前贈与マネー。NISAでは元本100万円を上限に株や投資信託の売却益や分配金の利益が5年間非課税になる。投資に関して非課税メリットがあるうえに生前贈与で相続対策にもなるわけだ。NISAは20歳以上が対象だが、子どもNISAなら未成年の孫でも使える。

モデルは後述する英国のジュニアISAだが、金融界では「日本では相続に備えた資金の世代間移転のニーズが強く、制度が創設されれば大きな金額に育つのでは」(日興アセットマネジメントの汐見拓哉NISAセンター長)との期待が出ている。

相続税の負担減に生前贈与はどれくらい効くか。例えば基礎控除を引く前の遺産が1億5000万円で法定相続人が子3人の場合、何もしなければ相続税の総額は1440万円(来年以降の基礎控除が前提、計算法は省略)。

子どもNISA創設で6000億円が投資に?

一方、子ども3人にNISAの現在の限度額である年100万円ずつ10年間、計3000万円を生前贈与すれば、相続税の総額は930万円へ、510万円減る(グラフB、贈与税はもらう人1人当たり年に110万円まで非課税なので、贈与税はゼロ)。

子どもNISA導入なら実際には高齢者からの贈与の相手は子ではなく孫になるケースが多そうだが、生前贈与の軽減効果は同じだ。

子どもNISAが創設された場合、NISAで投資できる対象者は約2000万人にのぼるとみられる。利用率5%として、仮に100万円全額でなく年平均60万円としても、6000億円が投資に回る計算だ。

株式市場にとって大きいのは、このお金は少なくとも当分、引き出されずに累積していくこと。子どもNISAでは、導入の場合には18歳までは原則引き出せないようにされるはずだからだ。アベノミクス初期の相場を支えた「足の速い資金(ヘッジファンドなど)」とは違う、長期の買い手としての性質を持つ。

50兆円の相続マネーの潮流の一部が、株式市場への流入という形で変化するなら、掛け声倒れが続いてきた「貯蓄から投資」が意外に加速するかもしれない。

課題はやはり恒久化

子どもNISAの実現は今後の税制改革の行方しだいではあるが、拡充策の有力な選択肢の1つ。ただしNISAに関し、最重要な課題はやはり制度の恒久化だ。

日本でも長期で国際分散投資で資産を積み上げていく若い世代が出始めているが、NISAの非課税期間が5年であることが制度活用の最大の障害になっている。NISAのモデルになった英国ISAも「当初は期間限定だったが、途中で恒久化されたことで普及にはずみがついた」(野尻哲史・フィデリティ退職・投資教育研究所所長)。

あるメガバンクの幹部は現状をこう見る。「金融庁はやはり制度の恒久化を第一に考えている一方、子どもNISAは証券業協会から特に要望が強い。キナくさいのは、これとは別に政治家から拠出額を年200万円にするなどの案が出ていること」

これら3つが一度に実現されるとは少し考えづらい。メガバンク幹部は「非課税期間の延長・恒久化と子どもNISAの優先度が高いと思う。しかし拠出額拡大は政治家方面から出ているだけに優先されかねない」と懸念していた。

株式市場への期待は多いが、子どもNISA導入の本来の趣旨は、もちろん子どもの将来のための資産形成だ。

英国では大学入学資金の準備などに

子どもNISAのモデルは英国の「ジュニアISA」。英国在住の18歳未満の子どもを対象にする制度で、売却益や利子・配当などが非課税だ。主に親や祖父母が資金を拠出し、18歳まではやはり引き出しは原則不可だ(表C)。

11年の創設なので、まだ残高は小さいが、大学入学資金の準備などとして着実に増えてきている。

日本はいまや貯蓄ゼロの世帯が3割にも達している。物価が上昇を始めたなか、資産形成における投資の重要性は高まっている。フィデリティの野尻氏は「子どもNISAは中長期的に投資家を増やすことに対して大きな役割を果たしそう」と期待する。

未成年の孫が贈与を受けた場合、運用は親権者であるその親になりそう。「親世代への投資教育を同時に進めることも一層大事になってくる」(日興アセットの汐見氏)との声も聞かれた。

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