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金大量保有のファンド 米ポールソン、遂に売却開始

サブプライムに勝ったファンド」として一躍名をはせた米ポールソン・アンド・カンパニー。今や、代表的なヘッジファンドとして日本でも機関投資家などが購入している。

米国の信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)問題を予見し、いち早く、住宅ローン債権やら金融株を空売りしていたのだ。あのリーマン・ショックの年、ほとんどのファンドが軒並み大幅なマイナス・リターンを出すなかで、ポールソンはプラス36%をたたき出した。

そして世界金融危機後。投資家がポールソンの次の一手はなにかと見守る中で、また、アッと言わせたのは、彼が大量の金上場投資信託(ETF)、そして金鉱株の買いを実行したことだった。

金ETF買い付け量は93トン強。世界の年間金生産量が2800トン程度だから、ひとつのファンドが100トン近く買い占めると、その影響は大きい。ちなみに買いのコストは1トロイオンス900ドル前後である。

彼が、なぜ金大量購入に踏み切ったか。「金融危機から脱出のために超量的緩和政策の下で大量のドルがばら撒かれた。これはいずれインフレの芽となる。そのリスクのヘッジのための戦略的金保有だ」と彼自身が記者会見で語っている。

しかし、問題点があった。

100トン近くの金をいかに売り抜けるのか。いわば「金魚鉢の中の鯉(こい)」状態で出るに出られぬ。結局、彼はヘッジファンドとしては異例の2年以上の期間にわたり、その金を保有し続けた。

ちなみにポールソンのようなファンドは米証券取引委員会(SEC)に登録しており、3か月ごとに運用資産の情報開示が義務づけられている。四半期末から45日以内に13Fという書式で報告するので業界では13Fといわれる。

 今週11月15日は今年9月末時点での13F提出期限。そこで、ポールソン・アンド・カンパニーは金ETF保有残高を2030万口と報告書に記載していたことが判明。6月末に比し36%の減少。約30トンを7~9月の間に売却していたのだ。

7~9月期といえば金価格が1500ドルから1900ドル台の史上最高値にまで急騰後、一時は1500ドル台にまで急落という激動期。果たして、彼が、急騰局面で売ったのか、急落局面で売ったのかまでは分からない。

しかし、今年のポールソンは株式のポジションが激しく毀損しており、以前から、金の益出し売りで株の損失を埋め合わせるのではないかとの観測は根強かった。バンク・オブ・アメリカ株や中国株でやられ、今年のリターンはマイナス40%以上という惨状だ。そこで顧客の解約請求も急増するなかで、現金化のための金売りに出たのだろう。

正面きっての強行突破の売りだ。急落して1600ドル程度で売ったにしても、買いコストが900ドルだから楽勝である。マーケットの反応は、短期的には既に終わったことでもあり、プロの間では想定内のことゆえ大きな反応はない。

しかし、何せアイコン(偶像)的ファンドなので、その心理的影響が投資家に与える影響はジワリ効くだろう。

市場の関心は、残量(約60トン)をいつ売るかということ。価格上昇局面で徐々に売り抜けるとすれば、価格の頭は当面重くなる。しかし、通年で見れば、60トン程度であれば、今年に入って、外貨準備で買われている金だけでも500トンに達すると予測されるので、市場は十分に吸収できる。

買いの本尊がヘッジファンドのような浮動株主から、国や年金基金、新興国のような長期保有の安定株主に入れ替わることで、長期的には買い手の構成が堅固なものになってゆくだろう。

豊島逸夫(としま・いつお)
豊島逸夫事務所(2011年10月3日設立)代表。9月末までワールド ゴールド カウンシル(WGC)日本代表を務めた。
 1948年東京生まれ。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラーとなる。チューリッヒ、NYでの豊富な相場体験をもとに金の第一人者として素人にも分かりやすく、独立系の立場からポジショントーク無しで、金市場に限らず国際金融、マクロ経済動向についても説く。
ブログは「豊島逸夫の手帖」http://www.mmc.co.jp/gold/market/toshima_t/index.html
ツイッター(http://mobile.twitter.com/search?q=jefftoshima)
ではリアルタイムのマーケット情報に加えスキー、食べ物など趣味の呟きも。日経マネーでは「現場発国際経済の見方」を連載中。日本経済新聞出版社や日経BP社から著書出版。
業務窓口は ga@zas.att.ne.jp 事務局。
日経BP社から6月21日、ムック本『豊島逸夫が読み解く金&世界経済』が発売されました。

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