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QE3は本物か どう読む次の一手

編集委員 土屋直也

米連邦準備理事会(FRB)は先週、量的緩和政策の第3弾(QE3)に踏み込んだ。発表当日のダウ30種工業株平均は200ドル以上も上げ、先週末の日経平均も日銀の追加緩和も見込んで、9000円台を回復した。だが、FRB内には依然として緩和慎重派が残っている。緩和の流れが「本物」か、は見極めが必要だ。

先月末の米カンザスシティー連銀主催のジャクソンホールでの金融セミナー。市場の関心はバーナンキFRB議長が金融緩和にどう言及するかだったが、参加者の関心は年末に切れるブッシュ減税など財政緊縮策、いわゆる「財政の崖(フィスカル・クリフ)」だったという。

米国の国内総生産(GDP)の4%相当の財政支出削減と減税打ち切りが一斉に実施されるとあって、「何の手だても取られなければ来年の米景気は景気後退が確実になる」(A・ブラインダー元FRB副議長)の状況だ。

いまや、米国で経済人が集まれば「財政の崖をなんとかしないと」という話題にならないことはない。経済への悪影響は明らかだが、米国の大統領・連邦議会選を控えて民主・共和の2大政党の対立が激しすぎ、回避のための妥協策を生みだしようがないからだ。

ジャクソンホールの連銀セミナーでも、政界への働きかけなどが議論されると同時に、結局は「金融政策で時間稼ぎをするしかないのでは」との声が多かったという。財政の崖への警戒感から年末を待たずに市場が底割れしかねないとの不安があるからだ。

先週のFRBの政策決定はこれに十分に応えた内容になった。事前に市場関係者の間では、量的緩和までは踏み込めないとの見方が根強かったこともあって、市場には「サプライズ」が広がった。

ただ、毎月400億ドル(約3兆1000億円)という資金供給額は微妙な額だ。量的緩和第1弾(QE1)を毎月の額にならすと1000億ドル、第2弾(QE2)は966億ドルだったのに比べ、慎重な姿勢が見える。

FRBの総資産の増加率でみると、より鮮明だ。リーマン・ショック直前の2008年半ばから今年半ばまでの伸び率は平均で年33%だったが、QE3は17%程度にとどまる。

FRBがマネーのばらまきに慎重なのには訳がある。QE2の際に副作用として、原油価格が1バレルあたり150ドルを超えるなど商品市況が跳ね上がったからだ。ブラジルや中国など新興国からは、過剰なドル資金の流入が各国でのバブルを生んだとの批判も飛び出した。

過剰な緩和は新たなバブルを生み出しかねないため「(緩和で)時間稼ぎはできても、結局は問題の先送りにすぎない」との見方は中央銀行の間ではコンセンサスになりつつある。FRBがQE3に踏み込んだのは、財政の崖と緩和の副作用をてんびんにかけたうえで、当面の市場の安定を優先した結果だ。

FRBが巧妙なのは、QE3の発表の際にはそんな内面の悩みはおくびにも出さず、「サプライズ」を演出していることだ。おまけに、QE1、QE2の時にはあった期限や実施額の上限も設けず、緩和姿勢を強固なものに見せた。

さらに、バーナンキFRB議長は会見で「景気が悪化するようなら緩和を拡大する」とも述べている。政策発動の追加余地を残し、期待をつなぎ留める効果も計算している。

そんな姿勢と、今後の経済見通しから、米大手証券メリルリンチは年明け以降は、さらに資金供給額を毎月450億ドル上乗せすると想定している。

実際、欧州や中国の景気の下振れで米国経済も年明けを待たずに減速感が強まる可能性は高い。米政府関係者からは、「大統領選挙後に、FRBは社債や株なども購入するQE4に踏み込むのではないか」との観測すら聞こえてくる。

気になるのは、今回の買い入れ対象が米国債でなく、住宅ローン担保証券(MBS)であることだ。リーマン・ショック前後に表面化した米国銀行の不良債権はMBSを売却する形で、米連邦住宅抵当公社(ファニーメイ)と米連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)に集めている。

両社はMBSの価格下落に苦しみ、四半期ごとに公的資金の注入を受けてきた。それが、今年6月末までにようやく債務超過を脱して黒字化した。今回のMBS買い入れは、両社の収益好転を支援し、米国での金融システム問題を改善しようという隠れた意図も透けているとの見方も米国では少なくない。

大統領選後の金融政策はどうなるだろう。FRBは量的緩和の副作用への懸念を引きずっており、さらなる量的緩和の強化があるかはなお不透明だ。だが、米国経済の減速の可能性は高まっている。「米緩和がドル安(円高)圧力となっていく」(吉川雅幸メリルリンチ日本証券チーフエコノミスト)可能性は先にゆくほど高まりそう。先週は米緩和で大幅高となった日本株だが、円高が足を引っ張る局面もあるのだろう。

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