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非課税、小分け…相続増税対策には金が有効

金地金や金貨は、どれだけ保有しても固定資産税がかからないことは、あまり知られていない。相続税増税で庶民が相続税の心配をする時代。親が小さな家や土地を持っていれば、若い人でも相続する身となり、人ごとではなくなる。そこで不動産と比べた金の有利性が注目され始めているのだ。店頭での現象としては、1枚10数万円の金貨を数枚から数十枚まとめ買いする人が見られる。投資効率としては、まとまった資金であれば、金地金の方が手数料は安い。それでもあえて、金貨をまとめ買いするのは「相続」目的だからだ。

固定資産税の非課税に加え、金貨で小分けしておけば相続時の争いが起きにくい。不動産を親族と共同名義にすると後々のトラブルの種になりやすい。

さらに金はすぐに売れる。土地はいざ売る段になっても、すぐに買い手が見つかることはまれだ。

そして消費税。ここは詳しい説明が必要だ。

巷間(こうかん)伝えられるのは、金には買い取り価格にも消費税が上乗せされるので「5%のときに買って8%になったら売ればもうかる」という短絡的な話だ。しかし、金価格は短期的に変動するし、金売買には手数料もかかるので「消費増税でひともうけ」という発想は薦められない。

しかし相続の視点に立ち、長期保有が前提になると話は別だ。10年後、20年後に日本でも欧州並みの消費税率20%前後というシナリオは無視できない。長期的に税制が変わる可能性はある。

長期的に金価格が下落するリスクを心配する人もいるだろう。これについては明確な答えがある。金には「生産コスト」という理論上の下限がある。採算割れでも溶鉱炉同様に一旦火を落とすと再開のハードルが高いので、当面は金鉱山も操業を続ける。

しかし、採算割れが長期化すれば結局閉山に追い込まれる。その生産コストの世界平均が1211ドルである。過去10年では4倍に急上昇中だ。埋蔵量の分布が過酷な自然環境内に限定されつつあるので採掘コストが上がっているのだ。しかも、将来有望な埋蔵量の多くは海底(日本でいえば伊豆半島沖の太平洋や沖縄海域)なのだが、原油と異なり固体ゆえ噴出せず、開発・採掘は金価格が1万ドルになっても採算には乗らないといわれる。さらに低価格水準では、リサイクルも下火になるので二次的供給源も減少する。

一方、経済成長が減速した2013年でも年間金生産量の3分の2を買い占めた中国・インドの金需要二大国は、「バーゲン・ハンター」(押し目買い)に徹している。2013年に米国の量的緩和縮小の可能性が顕在化して金価格が瞬間的に1200ドル割れまで急落したとき、中国とインド・中東の現物市場には現物買いが殺到した。現地価格には世界標準のロンドン現物価格に比べて、大幅なプレミアムがつくという異常な事態も発生した。さすがのニューヨーク先物市場のファンドによる空売り攻勢も、中国・インドの集中的な「買いっぱなし」攻勢に、売りポジションの買い手じまいを強いられた。

従って金価格が生産コストを下回れば、中期的には供給が減り、需要が増えることで需給が締まり、そこが相場の下値のメドとなる。底なし沼のような果てしない下げが無いことが、株との決定的な違いである。

説明が長くなったが、90年代のような金価格の長期下落トレンド再来は極めて考えにくい。当時は露天掘りに近い低コストの鉱山も多く、中国・インドの存在感も薄い一方、欧州の中央銀行は競って大量の金を売却してドルへシフトした。ところが今や、中央銀行セクターでは中国・インド・韓国・ロシアなど新興国が外貨準備としての金を購入する側に転じている。200~300ドル台で金を売却してしまい、おまけにドルを高値で買ったのだから、俗に言う「往復ビンタ」となり、英国議会では野党の格好の「追及ネタ」になってしまった経緯もある。

しかも国内では円高傾向から円安トレンドで、円建て金価格は「下げにくく上げやすい」状況だ。国際金価格が下落した2013年に、日本ではグラム5000円を超えて「30年ぶりの金価格上昇」と騒がれたものだ。

説明が長くなったが、以上の理由により長期保有が前提の相続目的の金購入に関しては、筆者も薦められる。

ただし、金は「投資」ではなく「ためる」ものだということは強調しておきたい。

不動産と比べても、ひとつ金が不利な面がある。

土地なら上物に賃貸住宅を建てて賃貸収入を得るという「投資効果」が期待できるが、金は配当金や金利などのインカムを生まない。だから筆者は、あえて「金投資」という言葉を使わない。「投資」とは、おカネに生きた働きをしてもらい配当や分配金を享受することが本筋だからだ。

金は資産運用であくまで「脇役」。主役は株・債券などである。脇役の持ち味は主役が不調のとき、あるいは危機的状態に陥った時に一定の価値を維持するという「資産保全」にある。何も生まない「不毛の資産」だが、価値の保存能力は極めて優れている。

最近はビットコインともよく比較されるが、価値保存手段としては金とビットコインでは全く異なる。ビットコインが優れているのは価値交換手段としての機能である。

結論は、相続のリスク分散手段として「金は有効である」ということ。特にアベノミクスの時代には、インフレに強い金を長期保有する意味がある。株で攻めて金で守るという発想である。

アベノミクスの成功を信じて日本株を買い、失敗したときにも備えて金をコツコツためておく。その金が役立たないのが実は一番望ましいのだが……(以上、日経マネームック「豊島逸夫が語り尽くす、金、為替、世界経済」の原稿を再構成しました)。

豊島逸夫(としま・いつお)
豊島逸夫事務所(2011年10月3日設立)代表。11年9月末までワールド ゴールド カウンシル(WGC)日本代表を務めた。
 1948年東京生まれ。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラーとなる。チューリヒ、NYでの豊富な相場体験をもとに金の第一人者として素人にも分かりやすく、独立系の立場からポジショントーク無しで、金市場に限らず国際金融、マクロ経済動向についても説く。
ブログは「豊島逸夫の手帖」http://www.mmc.co.jp/gold/market/toshima_t/index.html
ツイッター(http://mobile.twitter.com/search?q=jefftoshima)ではリアルタイムのマーケット情報に加えスキー、食べ物など趣味の呟きも。日経マネーでは「現場発国際経済の見方」を連載中。日本経済新聞出版社や日経BP社から著書出版。業務窓口は jefftoshima@hyper.ocn.ne.jp

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