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「最強連動通貨」と日本株の不思議な関係

編集委員 田村正之

円安と株高は米ドルとの関連で語られることが多い。しかし一部で知られ始めているように、ここ数年、日本株と最大の連動性を持つ通貨は実は韓国ウォン。最近の株高も、上昇が続くウォンの動きとピタリ一致する。それは電機、自動車などの業種で同国と競争が激しいことだけが理由ではない。「最強連動通貨=ウォン」と日本株の不思議な関係を探る。

最近の円ウォン相場を100ウォン=8.4円とすると、それから導かれる日経平均株価は1万864円。そして今後、100ウォンあたりの日本円が1円下落すると、日経平均株価は1368円上昇――。日本株とウォンとの関係を回帰分析という手法で試算すると、そんな結果が浮かぶ。

試算の詳細はあとで見るとして、まず日本株とウォンの連動の強さを見よう。連動性は「相関係数」という値で表すことができ、1に近づくほど高い。

ウォンと日経平均の相関係数を2007年以降で計算すると0.98(絶対値ベースの簡易計算)という非常に高い数値になる(ちなみにドル円と日経平均の場合は0.89)。実際の動きを見ても日経平均とウォンはピタリ一致する(グラフA)。

どうしてだろう。一般的な説明は、電機、自動車業界などが韓国と激しい競争をしていて、円ウォン相場で輸出競争力が左右される。だから円ウォン相場と日本株の連動性が高まるというもの。これは確かに事実で、東証の電機株指数などと円ウォン相場は非常に似た動きをしてきた。

しかしそれだけではうまく説明できないことがある。主要通貨以外で見ると、時期にもよるが、例えばメキシコペソなどもウォン並みの連動性の高さを示すからだ。メキシコと輸出競争力で争っているという話はあまり聞かない。

業績との関係で言っても、「日本の企業業績全般で一番影響が大きいのはやはりドル円相場」(野村証券の松浦寿雄ヴァイス・プレジデント)だ。ではなぜ日本株とウォン円の連動性はドル円より高いのか。

大きな要因は「通貨のリスク選好性の違い」(JPモルガン・チェース銀行の棚瀬順哉チーフFXストラテジスト)だ。

投資環境が「リスクオフ」で株価が下落するような時は、資金が潤沢な日本や米国などの投資家は資金を自国に還流させるので通貨は上がりやすく、一方韓国などは資金が引き揚げられて売られやすくなる。「リスクオン」では逆の動きになる。メキシコペソなどと日経平均の連動性が高いのも同じ理屈で説明できる。

つまりウォン円と日経平均は、(1)自動車や家電など主要業種が貿易上の競合関係にある(2)リスク選好で通貨が売買されるときの流れが株価の上下と一致しやすい――という2点が相乗効果をもたらし、異様なほど高い連動になっているようだ。

それを前提にしたのが、冒頭で紹介した日経平均とウォン円相場の関係(グラフB)だ。07年以降のデータを使って回帰分析というやり方で関係性を調べると、「日経平均(y軸)=1368×100ウォンあたり円(x軸)-634」という方程式が出てくる。これをもとにすると100ウォン=8.4円が示す日経平均の水準は1万864円あたりとなり、現実とほぼ一致する。

ちなみにグラフの中の「R2(アールスクエア)」というのは、横軸(円ウォン相場)と縦軸(日経平均)との関係が、どれほど「あてはまり」が強いかを示す数値(決定係数)で、1が最大。0.968というのはあまり例を見ないほどの高さだ。

そしてやはり関係式から、今後100ウォン当たり1円円安になると、日経平均は1368円上がることになる。

比較のために同様にやり方でドル円と日経平均を示したのがグラフC。かなり連動しているが、円ウォンより散らばり具合が高く、決定係数を比べると円ウォンには劣る。

ではウォン相場はこれからどうなるのだろう。

「世界的な景気回復の流れの中でエマージング通貨は買われやすい動きが続いており、ざっくり100ウォンあたり8円台半ばから9円を目指す展開」(棚瀬氏)、「100ウォン=8.7円あたりはあり得る」(みずほコーポレート銀行の唐鎌大輔マーケット・エコノミスト)とウォン高はまだ続くとの見方が多い。

ウォン相場を考える前提として「実質実効為替レート」(物価水準も加味した為替レートであり、輸出競争力を総合的に示す)の、推移(グラフD)も見ておこう。

金融危機以降の急落後、昨年からの上昇でやや修正されたが、過去10年の平均にはまだ届いておらず、割安感が残っている。それが上昇余地を指摘される背景でもある。

ただし、07年当時と比べた数値からだけで「まだ極端に割安」というのはやや韓国に酷かもしれない。その前にウォンはいったん大きく上昇していたからだ。

今後、介入で再びウォン安を目指すのではないかという懸念も一部にあるが、「輸出産業のためにウォン安の為替介入をしようとしても、米財務省から注意喚起されるなどやりづらくなっている」(唐鎌氏)。

「大統領選でも庶民の暮らしを重視する方向が明確に打ち出されている。インフレ率上昇につながるウォン安政策をとりづらい局面」(SMBC日興証券の阪上亮太チーフストラテジスト)という。

仮に今後介入があったとしても、流れを変えるような強力なものは出にくいとの見方が多いわけだ。

そもそも「台湾など他のアジア諸国に比べると相対的に韓国の介入姿勢は強くないことが、外貨準備の積み上がり方がさほど大きくないことや、相場が一本調子の下落でなく時期により大きく変動してきたことから推測される」(棚瀬氏)との声もある。

ウォン高の流れが続き、それが日本株に追い風となるとしたら有望業種は何だろう。自動車、家電、造船など韓国と競合が激しい業種が息を吹き返すのは当然だが、阪上氏は特に新日鉄住金、JFEホールディングスなど鉄鋼をあげる。

「鉄鋼は家電と違ってまだ本来は日本が競争優位な業種。それが為替で不利な状況になっていただけに、ウォン高が進むなら業績への大きな変化をもたらしやすい」(同)

ところで韓国ウォンに限らず為替と株の関係については、どちらがどちらに影響を与えているのか、実はなかなか因果関係はわかりづらい。

株式市場の専門家は「為替が業績に変化を与え、それが株価を動かす」と言うし、為替の専門家は「株が上がるか下がるか、つまりリスクオンかリスクオフかで、買われる通貨が違ってくる」と逆の因果の流れを指摘することが多い。

ウォンで見たように、おそらくそのどちらもが正しいのかもしれない。

確かにここ数年は、リスクオン・オフで為替も株も左右される動きが顕著だった。ウォンと日本株の相関が一層高まったのも07年以降だ。今後そうした状況がもし変われば、日経平均とウォンの奇妙なほど高い連動性が、将来薄れる可能性もある。

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