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米雇用統計サプライズ 浮上した4つの疑問

10日に発表された2013年12月の米雇用統計は、失業率が6.7%と2カ月連続で低下したものの、非農業部門の雇用者数が前月に比べて7万4000人増にとどまり、市場予測を大幅に下回った。この米雇用統計サプライズに関して論点をまとめてみた。

論点1 緩和状態は長期化?

バーナンキ米連邦準備理事会(FRB)議長は、昨年12月18日の記者会見で量的緩和縮小の減少幅を月額100億ドルと明示した。しかし、米連邦公開市場委員会(FOMC)声明には明示されていなかった。同時に、記者会見では「今後のマクロ経済情報次第で、資産購入ペースの調整もあり得る」と明言していた。

それでは、今回の米雇用統計の相当な悪化により、月額100億ドルの縮小ペースが減速することはあるのか? これまでは、少なくとも年内には、量的緩和が終了すると想定されていたが、その終了時期が来年にまで延長され、実質的な緩和状態が長期化する可能性が強まったのか?

論点2 失業率低下で引き締めへ?

FRBは量的緩和終了から引き締め(利上げ)への転換条件をフォワード・ガイダンスで「失業率が6.5%を下回ること」と表現してきた。その失業率がいよいよ6.7%にまで下がってきた。では、来月仮に6.5%まで下がれば、「利上げ検討」が始まるのか?

論点3 「失業率」は妥当な指標?

そもそも、FRBがフォワード・ガイダンスの「目玉指標」として選んで使ってきた「失業率」は妥当な選択なのか?

今回、失業率が6.7%に低下した原因は、労働参加率が63%から62.8%に低下したことによるところが大きい。失業率低下は経済改善を示す指標といえるのか? 労働参加率の低下が、ベビーブーマーのリタイア、求職意欲喪失など構造的要因にあるとすれば、労働市場自体が縮小していることになる。その結果、「見かけの完全雇用」に近い状況が早い時期に示現してしまう事態も考えられる。

そうであれば、「失業率6.5%で利上げ検討開始」、さらには「6.5%を大きく(well past)下回っても、実質的なゼロ金利状態を継続する」という表現で明示されてきた「6.5%」を6.0%あるいは5.5%にまで引き下げる案が支配的となるのか?

論点4 原因は需要減少?

失業率がここまで低下しても、FRBがベンチマークとするインフレ率が1.1%の低水準にとどまり、「ディスインフレ」状況となっている。これは、失業率の指標として妥当性に問題があるのか、あるいは、ローレンス・サマーズ元財務長官の指摘する「需要減少」による米国経済のスタグネーション(停滞)による現象なのか?

ここからは、各論点について、FRBの対応を吟味してみよう。

論点1 量的緩和早期終了説は後退

基本的に雇用統計は月ごとの振れが大きい。事後的修正も頻繁である。ゆえに、12月1回の下振れをもって、金融政策を修正するのは早計である、との見方が多い。特に、気候の厳冬効果の影響が強い。

しかし、今回の非農業部門の新規雇用者数が前月比7万4000人増というのは、事前予測の同19万7000人増を大きく下回った。10月、11月分がプラス3万8000人上方修正されたものの、過去3カ月の平均は20万6000人から17万2000人に減少し、経済改善のベンチマークとされる20万人を下回る数字となっている。

さらに、過去6カ月平均も18万6000人から17万人へ減少している。内容も広範囲にわたり悪い。これまで雇用の推進役とされたヘルスケアが1000人減、建設も1万6000人減である。少なくとも、量的緩和早期終了説は後退したといえよう。

論点2 失業率6.5%で引き締め議論へ

そもそもフォワード・ガイダンスの失業率6.5%という数字は、「自動的に利上げ決定の引き金となるものではない」と説明されてきた。引き締めへの転換の必要十分条件ではなくthreshold(メド)とされている。

従って、仮に来月6.5%が実現すれば、FOMCが本格的に出口戦略の議論を始める号砲とはなろう。

論点3 失業率目標の下方修正はあり得る

失業率を金融政策のベンチマークとして据えた以上、軽々しく変更すべきことではない。サッカーのゲーム中にゴールポストの位置を変えるようなものだ。変えれば市場は混乱する。しかし、6.5%を6.0%、あるいはそれ以下へ下方修正することは十分に考えられる。

論点4 FOMC内の亀裂が深まる可能性も

サマーズ論は金融政策より財政政策を重視した結論となっている。この議論はFOMCでの議論の域を超えている。ただし、インフレ率の下振れに関しては、FOMCメンバーの一部で、イエレン現FRB副議長が支えてきた量的緩和政策の是非を問う議論に発展する可能性はあろう。「未曽有の量的緩和をしてもディスインフレである」という批判が出るかもしれない。特に、新FOMCはタカ派が増えるので、内部意見の対立が鮮明化するシナリオは考えられよう(9日付「議事録に滲むFOMC内の亀裂」参照)。

総じて、イエレン次期FRB議長にとって、初仕事となる量的緩和逓減のかじ取りが難しくなったことは間違いない。副議長に指名されたフィッシャー氏ほか2人との連携プレーの重要性も増してきた。

豊島逸夫(としま・いつお)
豊島逸夫事務所(2011年10月3日設立)代表。11年9月末までワールド ゴールド カウンシル(WGC)日本代表を務めた。
 1948年東京生まれ。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラーとなる。チューリヒ、NYでの豊富な相場体験をもとに金の第一人者として素人にも分かりやすく、独立系の立場からポジショントーク無しで、金市場に限らず国際金融、マクロ経済動向についても説く。
ブログは「豊島逸夫の手帖」http://www.mmc.co.jp/gold/market/toshima_t/index.html
ツイッター(http://mobile.twitter.com/search?q=jefftoshima)ではリアルタイムのマーケット情報に加えスキー、食べ物など趣味の呟きも。日経マネーでは「現場発国際経済の見方」を連載中。日本経済新聞出版社や日経BP社から著書出版。業務窓口は jefftoshima@hyper.ocn.ne.jp
 豊島逸夫さん責任編集のムック本『不安を生き抜く!「金」読本』が日経BP社から発売されました。

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