定年退職後の資産管理 守るべき3つのルール - 日本経済新聞
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定年退職後の資産管理 守るべき3つのルール

はじめての投資信託 実践編(28)

カネダマモルくんはカラオケで映画「天空の城ラピュタ」の主題歌を歌っています(覚えていますか? カネダくんの趣味はアニメソングを歌うことです)。筆者はオフコースの歌を歌っていますが、カネダくんは曲探しに夢中でぜんぜん聞いてくれません……。

「カンさん、やっぱりアニメソングはストレス解消にもってこいですね!」

(筆者、無言……)。カネダくん。それはそうと、お父様はお元気ですか?

「あっ、元気ですよ。ただ、特に趣味があるわけではなく、家の中をうろうろしているそうです。『じゃまになって困るわ』と母が愚痴をこぼしていました」

なるほど……。定年退職後の生活をどうやって過ごしていくかは意外と頭の痛い問題ですね。いま日本に住んでいる60歳の皆さんは、人類史上もっともエネルギッシュな60歳のはず……。定年を機に膨大な「自由時間」を手に入れるわけですから、決して傍観者にならずにセカンドライフという舞台に上がって、大いに自身を演じて楽しんでいただきたいと思います。

また、お金の管理についていえば、まずは苦手意識を持たないこと……。趣味に没頭するのと同じように、お金に対して知的好奇心を持ってみてください。ただし、社交ダンスにルールがあるように、セカンドライフの資産管理にも大切なルールが存在します。

カネダくん、当オフィスのお客様に田所雷太さん(仮名)という60歳の方がおられます。田所さんは定年退職の1カ月前に当オフィスに相談にお見えになりました。以下、田所さんに対するアドバイス内容を、ルール形式にしてまとめてみましょう……。(田所さんは手取りで2000万円の退職金を受け取る予定。筆者は田所さんに今後の資産管理のあり方についてお話ししました)

ルール1 預金から生活資金を取り崩すという発想をやめる

例えば、公的年金以外で毎年必要となる金額がA万円あるとします。いまあるご資産額の総額はB万円としましょう。B÷Aで「資金が何年持つのか?」といった考え(例:5000万円÷180万円=約27.7年)は、いったんゴミ箱に捨ててください。このやり方は「長く生きるリスク」を無視してしまっています。

長生きするリスクを軽減させるためには、いくばくかのリスク資産を保有すること、すなわち資産運用が必要です。その際、預金などの安全資産と、運用する資産(リスク資産)を分けて考えず、資産管理する「集合体」=安全資産+リスク資産としてとらえ、それを「ポートフォリオ」と認識する必要があります(ポートフォリオとは、安全資産+リスク資産であり、一生涯付き合い続ける「相棒」なのです)。

また、安全資産を含めたポートフォリオの方が「リ・バランス」や、年に1度の引き出しがしやすいのです。田所さん、セカンドライフでは「運用しながら定期的にお金を引き出す」発想をお持ちください。その際、安全資産とリスク資産の両方から、お金を取り崩すことが肝要です。

ルール2 定期的な収入がある金融商品を選ぶ、という思い込みから抜け出す

セカンドライフの資産運用の目的は何でしょう? それは、公的年金からの収入で「足りない部分」を補うことです。

筆者は相談業務の中で、「定期的な収入がある金融商品」を選んでしまうお客様をたくさん見てきました。具体的には、個別の債券や不動産投資信託(REIT)、あるいは毎月分配型の投資信託などです。これらは「定期的な収入がある」ことだけが共通項の商品のため、ポートフォリオを組むとまず個別銘柄とファンドが混在してしまいます(例:個別の債券+毎月分配型ファンド。これだとリスクの総量が測りにくいですね)。また、資産や国・地域、通貨が偏るといった弊害が生じます。

カネダくん、これはお父様にもぜひ伝えてほしいのですが、別に「定期的な収入がある金融商品」を選ぶ必要はないのです……。

「えっ、そうなのですか?」

はい。投資の基本はシンプルです。資産の分散、国・地域の分散を施したポートフォリオを組み、おのおのの金融商品を定期的に「解約」することで生活資金を捻出しましょう(保有するすべての金融商品を、定期的に「つまみ食い」するイメージです……)。

ところでカネダくん。個々人の生活ベースに則った、細かい金額で解約がしやすい金融ツールって何でしょうか?

「投資信託です!」

その通り……。個別の債券は購入単価が50万円、100万円のものが多く、解約する際に細かい金額ベースに対応できません(単体のREITもそうですね)。つまり、田所さんのポートフォリオは、投資信託という形で統一させたほうが合理的なのです。

例えば、安全資産はMRF(マネー・リザーブ・ファンド)をメーンとします。リスク資産はインデックス・ファンドを中心に保有します。解約は年1回とし、1年間で必要になる生活資金を普通預金にプールしておきます。

ルール3 30年後、自分の資産をどうしたいのかを明確にする

田所さんはご自身の5000万円(退職金含む)を、30年後にどうされたいですか?

(A)7000万円にしたい
(B)同じくらいの金額があればOK
(C)3000万円に減っていてもよい

(田所さんは悩んだ末、B と答えられました)。ここ、たいへん重要です。投資では、最初から「この程度のリスクを取らないといけない」、あるいは「年利6%を目指さないといけない」という縛りがあるわけではありません。個々人の「目的地」にたどり着くために、必要なリスクだけを取ればよいのです。

ところでいま、田所さんは年間180万円の引き出しを希望されています。カネダくん、筆者が昨年11月25日付の「投信に保障や年金の機能を求めてはいけない」でお話しした投資信託の「定額解約サービス」を覚えていますか?

「はい、もちろんです」

毎月定額で投資信託を解約し、1年間の生活資金に充てるという方法ですが、ここは一歩進んでパーセンテージで資産を管理するやり方を覚えましょう。

「パーセンテージですか?」

そうです、カネダくん。田所さんのポートフォリオは5000万円で、年に180万円の引き出しを希望されています。これは、パーセンテージ(引き出し率)でいうと年3.6%になります。

田所さん、仮にご資産全体を年3.6%で運用しながら、毎年3.6%の資金を引き出せば、30年後のポートフォリオの名目価値は変わらない、ということになりますね。これは、田所さんのご希望である「30年後に同じくらいの金額があればOK」を満たすことになります……。

「そうか。運用も資金の引き出しも『パーセンテージ』で管理すればよいのですね?」

その通りです、カネダくん。想像してみてください。ポートフォリオが膨らんだ年は、同じ3.6%でも引き出す「金額ベース」が増えます。逆に、ポートフォリオが縮んでしまった年は、同じ3.6%でも引き出す「金額ベース」は減ります(ポートフォリオが縮んだ年に、前年と同じ金額ベースで引き出してしまうと、ポートフォリオの毀損が大きくなってしまいます……)。

つまり、長生きするリスクに対応するためには、ポートフォリオの「%管理」を実践し、マイナスになった年の引き出し額を自動的に調整することが不可欠なのです。ただし、カネダくん。マイナスの年も、迷わず資金は引き出すのですよ。なぜなら、楽しくお金を使うためにわざわざ資産運用しているのですから!

「カンさん。もし田所さんが安全資産50%、先進国債券20%、日本株式10%、全世界株式(除く日本)20%というポートフォリオを組んでいたら、年に1回、ポートフォリオの3.6%分を、それぞれのファンドの組み入れ割合に応じて『解約』すればよいのですね」

その通りです、カネダくん。それを毎年続けるのです……。資金の引き出し作業は、年に2回の「リ・バランス」と同じタイミングでやるとよいでしょう。例えば3月と9月にリ・バランスをする人は、3月か9月を年に1度の「引き出し月」とするのです。運用しながら定期的にお金を引き出すことが、セカンドライフの資産管理そのものなのです。

カン・チュンド>晋陽FPオフィス(http://www.sinyo-fp.com/)代表。CFP ファイナンシャルプランナー。1968年生まれ。在日コリアン3世。資産運用に特化したセミナー、コンサルティング業務を手がける。著書に「投資信託35の法則」(ソーテック社)、「ETF投資入門」(日本経済新聞出版社)など多数。趣味は美術館巡り。

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