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バフェット氏の助言 「勝者を当てない」投資術

編集委員 田村正之

米著名投資家で「オマハの賢人」と呼ばれるウォーレン・バフェット氏。経営するバークシャー・ハザウェイの株主に年に一回手紙を送る。3月初旬に同社のホームページで開示された最新の手紙では「普通の人は勝者(上がる株)を当てなくてもいい」と助言した。「銘柄選びのカリスマ」の意外な言葉は、少額投資非課税制度(NISA)などを機に投資を始めようとする投資初心者への重要な示唆だ。

今年の手紙は彼自身の過去の2つの小さな投資の話から始まる。1986年の米中西部の農地と、93年のニューヨーク大学近くの小売店舗用不動産だ。

農地はその年によって好不調はあるものの、トウモロコシや大豆のリターンが投資額に対して年に10%以上見込めると計算。実際にその通りになった。小売り用不動産もテナントの入れ替えで収益が大幅に上向くと予測、現在では投資額に対し年に35%を超える利益を生み出している。

バフェット氏はこの2つの投資を例に、検討対象の資産がどれほどの利益を生むか考え、自分に見積もりができなければその件は忘れるべきだと助言。一方で買った農地や小売り用不動産の評価額が日々どのように変動するのかなどまったく気にしなかったという。2008年からの金融危機の際も同じだった。

「自分が長期的には明るい見通しの堅実な事業を丸ごと持っている場合に、安値で放り出すのは愚かなことです」

自分たちが株式に投資する際に重視するのも将来利益の見積もりだとした。5年間またはそれ以上先の利益をだいたい見積もれるか考え、それができた場合、見積もった下限の額から見て妥当な株価がついているときにだけ株を買う。

しかし「自分たちのテリトリー」でなかったり、利益を見積もる能力がなかったりする場合は他の案件に移る。だいたいは後者だ。

ここまでは「自分たちが事業の予測ができるものだけを割安に買い、長期で持つ」というバフェット流投資の本質を示した言葉だ。ただし手紙はこう続く。

「ほとんどの投資家は、事業の見通しが立てられるようになる勉強を人生の優先事項にはしないでしょう。もし賢明であれば、特定の事業の将来利益を予測できる知識を持っていないことがわかるでしょう」。つまりみんながバフェット氏になれるわけではないということだ。

それでも失望する必要はないという。

「一般的な投資家がそのようなスキルを持つ必要はありません。米国のビジネスは時代を超えて素晴らしい成果を上げてきたし、今後もそうでしょう。プロでない人々が目指すべきなのは、勝者を当てることではありません。自分だけではなく、助力者にもできません。代わりに幅広い領域にわたる企業を買えば、必ずうまくいきます。S&P500種株価指数に連動する低コストのインデックスファンド(指数連動型投信)を使えば目標を達成できます」

買うタイミングも当てようとするな、と説く。「初心者や臆病な人は相場が極端に過熱したときに相場に参加し、評価損が出れば幻滅してしまいがちです。この間違いを防ぐには、長い時間をかけて株式を買い続けていくことです。そして悪いニュースが出て株価が高値から下げても、決して売らないことです」

つまり、いつ買えばいいか当てなくてもいいとし、買うタイミングを分散することを勧めている。例えば同じ金額で毎月買い続けていくドルコスト平均法などだろう。

次に頻繁な売買がマイナスであることを述べたうえで、投資をアドバイスする人たちに言及する。「アドバイスや取引を担当することで稼ぐ人は、相手が個人か機関投資家かを問わず常にアクティブに動くことを勧めてきます。それにより生じる費用は巨額で、投資家全体としては利益を捧げてしまう結果になります。彼らのおしゃべりにとらわれず、コストをかけずに農地に投資するように株式に投資しましょう」

こうした助言についてのバフェット氏の「本気度」は自分の妻への遺産相続についての方針でもわかる。妻への相続のための信託で「現金の10%を政府短期債で、残り90%はS&P500のインデックスファンドで運用するよう指示しました(超低コスト投信で知られるバンガード社の投信を勧めます)。こうした方針をとることにより、高額な手数料をとる運用者を抱えている他の投資家よりも、長期では優れた結果を残せると確信します」

バフェット氏が「普通の人はインデックス投資を」と勧めるのは初めてではなく、過去にも「株主への手紙」の中で言及しているが、今回のように詳しく書くのは珍しい。

「銘柄選びのカリスマ」が「普通の人」には高度な銘柄選びやタイミング選びを勧めていないこと、それでも長期・分散・低コストを徹底すれば十分な成果が得られるとしていることは、特にこれから投資を始める人への重要なアドバイスだ。

では日本の投資家はどうすればいいのか。残念ながら日本株は今や世界の株式の時価総額の中で1割未満だ。世界の中では「一つの個別株」にすぎず、S&P500と違って日本株だけの投資では十分な分散は図れない。収益率も米国株に大きく劣る。

幸い、今や低コストで世界全体の株や債券に投資できる投信が続々と登場している。グラフのように、例えば国内外の株と債券に4分の1ずつ、毎月等金額で投資した場合、バブルが崩壊した90年以降でも資産は累計投資額の1.8倍になっている。もちろんリスクがとれるなら、債券を入れず世界全体の株価指数に連動するインデックス投信も選択肢だ。

バフェット氏は個別銘柄の分析や投資を否定しているわけではもちろんない。ただしあくまで、普通の人の場合は資産の中心部分(コア)は低コストで幅広く分散した運用で、安定的に増やすことの大切さを伝えている。

個別株などを対象に「勝者を当てる」投資でより高いリターンを目指したい場合は、資金の一部(サテライト)を使って挑戦する選択もある。年金などが使うコア・サテライト戦略だ。

しかし多くの個人には「何がいつ上がるかを当てることだけが投資」というイメージが強い。その結果「投資は難しい」「当て続けるのは無理」などと感じ、投資から去っていく。「普通の人は勝者を当てなくていい」というバフェット氏の言葉をかみしめたい。

もちろん市場参加者の大半がインデックス運用になれば、よい会社に資金を流し込むという市場の機能が失われる。銘柄選びをするアクティブ投資家の役割はもちろん重要だ。ただしその責任を個人に負わすのは酷。豊富な人材と情報とスキルを持つ機関投資家こそが、そうした企業選別の責務を負うことが求められる。

月曜朝掲載の「マネー底流潮流」は編集委員の北沢千秋、土屋直也、田村正之が交代で執筆しています。来週は北沢です。

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