銀行が薦めるのは銀行がもうかる商品 - 日本経済新聞
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銀行が薦めるのは銀行がもうかる商品

 給与振込や預金、住宅ローンから資産運用、生活保障まで……。規制緩和によって投資信託や保険商品なども窓口で販売できるようになった銀行。わたしたちの生活設計において必要なサービスを銀行に一本化できるようになり、利便性が高まるものと期待された。しかし今、窓販対応にはファイナンシャルプランナー(FP)など専門家から厳しく批判的な視線が向けられている。いったいどんな問題があり、わたしたちはこれからどのように銀行とつきあっていけばいいのか。日経新聞記者が実際に銀行窓口をまわり、実情を調べるとともに賢くつきあっていく方法をシリーズで考える。

「100万円を運用したいのですが」――。

5月後半、3日かけて都内の銀行をまわった。資産運用の相談窓口でどんなアドバイスをもらえるかを確かめるためだ。

運用したいお金は100万円。当面使う予定がないので10年くらいは置いておける。運用初心者で、知識がないので相談したい、と説明した。

最初に訪れたA銀行。事前に電話で金額や年齢などを伝えたためか「お客様のご要望にふさわしい商品をいくつか用意しています」とのこと。商品紹介に関する書類に署名すると、パンフレットを広げて話し始めた。

30代でも「年金」「死亡保障」……

薦められたのはすべて保険商品だ。変額年金に米ドル建ての一時払い終身保険2種類。それに、通常は月々、保険料を払っていくタイプの終身保険を最初に一括払いする方法などだ。「保険だから安心」「預金を大きく上回る利回り」と、いいことずくめの説明にかえって不安がよぎる。資産はリスクの高そうな投資信託で運用しているようだが……。

次に訪れたB銀行での一押しも、やはり変額年金だった。疑問に思って、これらの商品や窓口対応についてファイナンシャルプランナー(FP)の井戸美枝さんに話したところ「リスクも手数料も高い商品ばかり。そもそも、30代前半の女性には必要性の薄い死亡保障や年金の商品を薦めるとは……」とあきれ顔だ。ではなぜ、保険ばかり薦められるのか。井戸さんの答えは明快だ。

「手数料が高くて銀行がもうかるからですよ」――。

 相談員から説明はなかったが、B銀行でもらった資料をよく見ると購入時に4%、運用費用として最大で毎年約3.5%もの手数料が差し引かれることがわかった。5年分の手数料だけで元本の約20%に上る。確かに、銀行や保険会社の受け取る手数料は驚くほど多い。

相談員の乏しい金融知識……

「投信とは、値上がり益を期待できるだけでなく、分配金という預金で言う利息を毎月受け取れる金融商品です」――。

保険だけでなく投信についても聞きたいと言うと、B銀行の相談員はこう説明を始めた。彼女の中では「投信=毎月分配型」らしい。商品ラインアップには手数料の安い指数連動型や分配金なしで複利運用する投信があるにもかかわらず……。

A銀行でもびっくり発言があった。ある国の債券型投信がお薦めだというので「なぜですか?」と質問した際のこと。

「この国は近く(国債が)格上げされるとの噂があって、そうすると金利も上がるのでより有利になるからです」――。

格上げされれば金利は抑制されるはず。記者が過去に勉強した知識は間違いだったのか。不安になるほど自信満々の語り口で相談員は繰り返した。ちなみに会社に戻って調べてみると、その国の国債はどの格付け会社でもトリプルA。そもそもこれ以上、格上げしようがない。

すっかり窓口相談に不安を覚えながら向かった3行目のC銀行では、少し様子が違った。

 相談員から渡された名刺には「FP」の文字。一番に薦められるかと思った保険については「お客様はまだお若いですから保障も見合わないですし、あまり長期にわたって換金できないリスクは負うべきではないと思います」とのこと。別の銀行とはいえ言うことがここまで違うものなのか。

FP資格を持つ相談員もいるが……

C銀行のお薦めは外貨建ての仕組み預金。通常の外貨預金と比べ、ずいぶん利率がいいようだが複雑すぎて商品説明を一読してもどんな運用がされるのかわからない。

リスクが高いことは一目瞭然だ。中途解約すると10%を超える損失が出るうえ、円と外貨のどちらで換金できるかはわからない。外貨で受け取ってもその銀行にはその外貨の取り扱いがないので手数料を払って円に戻すか別の銀行口座に送金するかしかない。円建ての仕組み預金に至っては、満期の時期を銀行が決める、というのだ。

FPの紀平正幸さんによると「預金と名がついてはいるが、中身はプロの機関投資家同士でやりとりするようなリスクの高い商品。満期や換金方法を事前に確定せず、相場の状況を見て銀行に有利な手段で資産を戻す」とのこと。相談員が専門知識を持っていても、結局ここでもお薦めは「銀行がもうかる商品」だ。

取材するほど不安ばかりが募るが、銀行とは今後どのようにつき合えばいいのだろうか。

紀平さんは「決して窓口で即決してはいけない」と注意喚起する。その上で、どんな説明をされたか検証するためにもやりとりを録音するよう勧める。録音機を見せれば相談員もおざなりな対応をできないだろう。

 FPの前川貢さんは「相談員が話すまま聞いていてはセールストークに飲み込まれてしまう。窓口は質問や確認をする場所ととらえ、教えてもらおうという発想を排除すべきだ」と指摘する。

セールストークにのみ込まれるな

自分に知識がないと不安なら、なるべく数多くの銀行窓口を何度もまわり、薦められた商品を比較する。いくつも薦められるうちに商品に共通項を見いだしたら「なぜこれを自分に勧めるのか」「注意点は何か」と判断の根拠や商品の詳細をどんどん尋ねよう。そうして自分なりに適切だと思える商品を絞り込んでいくのが、前川さんの勧める銀行窓口の利用法だ。

「生活設計や運用の目的をきちんと聞いて、それに向けた提案をしてくれない相談員を信用するのは難しい」――。

井戸さんの指摘にハッとした。そういえば、いずれの銀行でも運用資産をどう生かしたいのか、1度も聞かれることはなかった。記者が未婚か既婚か、子どもがいるか、住まいは賃貸か購入か……。資産形成する上で重要な事項も同様だ。預かる資産が何の目的でどう運用すべきかは、銀行には関心がないのだろう。

顧客のためより銀行のもうけ――。何も知らずにいれば、窓口で薦められるままに手数料もリスクも高い商品を契約してしまうかもしれない。大事なお金で失敗してしまってから後悔しても後の祭り。これからは銀行との付き合い方にも戦略が必要だ。

(岡田真知子)

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