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急回復、でも強気になりきれない株式市場

編集委員 北沢千秋

日経平均株価が直近安値を付けた6月26日(1万2834円)から前週末までの上げ幅は7営業日で1475円。上昇ピッチは日銀が異次元緩和を打ち出した4月相場を上回る。戻りはこれほど急なのに、今の株式市場にいまひとつ熱を感じないのはなぜだろう。中国問題や米国の金融政策の今後など、気になる外部材料が少なくないからか。株価の勢いに目を奪われて、足をすくわれるようなことだけは避けたい。そこで、急騰相場でも市場が強気になりきれない理由を改めて点検しておこう。「商いを伴わない上昇相場の後には反動安もあり得る」(藤戸則弘・三菱UFJモルガン・スタンレー証券投資情報部長)と、市場には先行きを警戒する声もある。

理由1 商いが盛り上がらない 今の市場に上値追いの迫力を感じない一番の理由は、商いが盛り上がりに欠けるから。東証1部の売買代金は過去7営業日の平均で2兆2000億円程度と、3兆円以上が常態だった4~5月に比べて売り買いともに細っている。藤戸氏は「売買代金の増加を伴う上昇でなければ、強気相場に転じたとは言えない」と主張する。

「公的資金のにおいがする」?

そんな市場でこのところ目立つのは、後場半ばから先物への大口買いや主要銘柄をパッケージにした現物株買いが入り、大引けにかけて日経平均が一段高する展開。前週末の5日が典型だ。藤戸氏は「市場が注目する米雇用統計の結果も確認せずに買いに出るのは何とも不可解。(高い株価という)値段が欲しい投資家がいるようだ」と推測する。

それがどんな投資家かについては諸説ある。5月の急落で痛手を被ったCTA(商品投資顧問)の仕掛け、あるいは株価指数リンク債の償還に絡んだ思惑買い、12日のオプションSQ(特別清算指数)算出前の株価つり上げなど――。

「公的資金のにおいがする」という市場関係者も少なからずいる。参院選を前に政府としては株高によってアベノミクスの成果を強調したいところ。あうんの呼吸で公的年金などが株式を買っているのでは、というわけだ。「今の政権は株価を気にしすぎている。まるで株価によって景気の良しあしを判断しているようだ」(矢嶋康次・ニッセイ基礎研究所チーフエコノミスト)。そんな見方があるぐらいだから、うがった観測も出てくるのだろう。真偽はともあれ、「PKO(株価維持策)説」がもっともらしく語られるのは、この株高を素直に評価できない市場参加者が多いことの裏返しでもある。

理由2 やっぱり中国が気になる 現物株市場の商いが盛り上がらないのは、「今の相場は先物やオプションの投資家が中心で、リアルマネー(年金などの現物株投資家)の動きは鈍い」(丸山俊・BNPパリバ証券チーフストラテジスト)から。丸山氏によると、リアルマネーが気にしているのは中国問題という。中国景気は減速感が強まっており、「金融機関の不良債権問題がいずれは何らかの形で表面化する」と予想する向きは多い。

リーマン級の危機には至らない

仮に中国経済のバブルが破裂すれば、その衝撃はどれほどのものなのか。外資による直接投資の減少や資金引き揚げで中国経済は長期にわたり打撃を受けるが、「中国の資本規制のおかげで世界の金融システム危機につながる可能性は低い」というのが丸山氏の見方だ。一党独裁政権は民意を気にすることなく公的資金を注入できるし、リーマン危機に学んだ世界の中央銀行も迅速な対応策を打ち出すはず。実際に起きてみるまでわからないが、「リーマン級」の大混乱まで懸念する見方は後退しつつある。

理由3 QE3縮小の評価が定まらない  中国問題と並んで市場が注視しているのは米国の金融政策の行方。ただ、量的緩和第3弾(QE3)の縮小に対する市場の評価は割れている。「縮小は米景気の回復、米金利の上昇によるドル高を意味し、日本経済には悪くない話。新興国市場などからの資金流出もいったん一巡した」(丸山氏)という強気な見方と、「5年にわたる(量的緩和という)モルヒネ投与をやめて何が起きるか。まだ市場はショックを十分に織り込んでおらず、仮に米長期金利が3%台に乗れば風景は一変する」(矢嶋氏)という慎重論だ。QE3の縮小をどれだけ市場が織り込んだか、一つの目安になるのは新興国や資源国市場の安定度だが、各国の株式相場は一時に比べて落ち着きを取り戻してきたとはいえ、まだ底入れを確認できたとは判断できない。

理由4 好業績は想定の範囲内 7月下旬に発表が本格化する4~6月期の業績については、「3割程度の経常増益という今期の好業績が改めて確認できそう」(守田誠・大和証券ストラテジスト)。ということは、順当な決算発表ではあるが、大きなサプライズもないということだ。

鈍る経営改革のスピード

田辺経済研究所の田辺孝則代表は「業績面からみて今の株価には割高感も割安感もない。業績予想の上方修正が相次げば相場も変わるだろうが、そんな雰囲気も感じられない」と話す。好業績が支えで下値不安は乏しいものの、今のところは業績を手掛かりにして買うのもためらわれるという。

矢嶋氏が懸念しているのは「経営者の間に妙な楽観論が台頭してきた」こと。円安や株高という好環境を生かして事業の見直しや業界再編を急ぐ企業が増えると期待していたが、逆に経営改革のスピードは鈍っているように映るという。「これでは足元で利益は出ても、日本企業の競争力は強まらない」。長期投資家にとっては憂うべきことだ。

こうして気になる材料を再点検してみると、日経平均が1万2000円を下回るような不安は乏しい一方で、再び1万6000円を目指すにも手掛かり不足。相場の大きな方向感が出るまでには、まだしばらく時間がかかりそうだ。

「この夏はじっくり銘柄研究に取り組むのもいいのでは」。そう話す田辺氏は、休むも相場と割り切ってのんびりした夏休みを過ごすつもりだそうだ。

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