/

米ヤフーの在宅勤務禁止論争、日本の企業風土では?

インターネット大手、米ヤフーのマリッサ・メイヤー最高経営責任者(CEO)が出した在宅勤務原則禁止の通知について賛否両論が連鎖的に拡散している。グーグルからリクルートされた37歳の女性CEO。就任直後にいきなり妊娠発表。しかも、無料昼食やスマホ無料供与などの従業員優遇策を相次いで実施した。そのCEOが、唐突に「在宅勤務禁止」メールを人事担当者名で全社員に流したので、特に意外感が強かった。

転送禁止とされた社内メールには、こう書かれているという。「この数カ月、様々な従業員優遇策を導入してきた」と前置きしたうえで、「最上の職場になるためには、コミュニケーションとコラボレーションが大事。ゆえに、私たちはサイド・バイ・サイドで(机をならべて)働く必要がある。社内にいることが肝要なのだ。ベストの決定や見解は、社内の廊下や社員食堂での、新たな人たちとの出会い、いや即席チームミーティングから生まれることもある。在宅勤務だと、スピードと仕事の質がしばしば損なわれる。私たちは、ひとつのヤフーにならねばならぬ。そして、それは物理的に一緒にいることから始まるのだ。この6月から、在宅勤務の全ての従業員に、ヤフー社内で働くことを求める。もし、あなたがその対象であれば、既に人事から連絡が行っている。その対象外の人たちも、たまに自宅のケーブルテレビ修理を待たねばならぬときは、コラボレーションの精神で最善の自己判断で臨んでほしい」と、オフィス空間での人のつながりの重要性を強調している。

これに真っ先に反論したのが、英ヴァージン・アトランティック航空創業者のリチャード・ブランソン氏。同氏のブログをのぞくと、こう書いてある。「他人と働き、成功するには、お互いに信頼せねばならない。社員がどこにいるか監視せずに信用して仕事を進めることだ。権限移譲が『アート』ともいえる。社員が社内のデスクにいようと、自宅の台所にいようと、自由に働けることでやる気も出て、実績も良くなると期待できる。それだけに、ヤフーの今回の決定は理解に苦しむ。後ろ向きの決断だ。仕事はもはや9時―5時ではない」

同氏以外にも多数の議論が噴出している。総じて社員の立場からは、勤務の柔軟性を求める声が圧倒的に強い。また在宅勤務だと、社内から隔離され、たこつぼ状態(英語ではサイロ状態という)になりがちなので、社員同士が社内フェイスブックで一体化を図っている例などが紹介されている。なかには、バーチャル・ビアホールを有志で立ち上げたエピソードもあった。在宅勤務者と社内勤務者がアフターファイブにスカイプなどをつなぎっぱなしにしたまま自室でビールを飲みつつビデオ会議形式で語り合うというもの。

しかし、社内で立身出世を目指すと、やはり直接的な人的関係の蓄積は欠かせないようだ。スタンフォード大学が最近発表した調査によると、在宅勤務者の労働生産性は高いが、社内勤務者に比べて昇進の確率が50%も低いという。キャリア面では、ボスとの対面時間が少ないことが昇進を遅らせる。上司との結びつきの面で、在宅勤務者は「忘れられた存在」になりがちなのだ。会議で参加者を引きつける振る舞いや、困難に直面したときの現場での対応ぶりが評価されるもの、と調査を担当した同大学教授は語っている。

以上は米国の話であるが、日本の企業風土ではどうだろうか。最近、在宅勤務は増えているものの、やはり圧倒的に「社内会議重視」傾向が支配していると感じる。午後8時を過ぎても、上司や同僚が残業していれば退社しづらい雰囲気は変わらない。さらにコンプライアンス重視の結果、社外への情報流出リスクを恐れ、在宅勤務も実質的には不可能という企業・職種も多い。

例外的な存在は、概して昇進はあきらめ、割り切ってWLB(ワークライフバランス、仕事と生活の調和)を求める社員たちであろうか。もし、「出社に及ばず、在宅勤務可」と言われれば、それは「窓際への移転」を意味する。日本の場合は、社内勤務偏重の企業風土だ。米国は、在宅勤務が一般化したうえで、その反省からヤフーなどが社内勤務に回帰してきている(ただ、業種により在宅勤務の可否が異なることは日米共通だろう)。

アベノミクスの成長戦略に関する議論では、無駄な会議時間を減らし、プライベートタイムに内需に貢献する消費活動ができる企業の文化的変革を考えてもよいだろう。

豊島逸夫(としま・いつお)
 豊島逸夫事務所(2011年10月3日設立)代表。9月末までワールド ゴールド カウンシル(WGC)日本代表を務めた。
 1948年東京生まれ。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラーとなる。チューリッヒ、NYでの豊富な相場体験をもとに金の第一人者として素人にも分かりやすく、独立系の立場からポジショントーク無しで、金市場に限らず国際金融、マクロ経済動向についても説く。
ブログは「豊島逸夫の手帖」http://www.mmc.co.jp/gold/market/toshima_t/index.html
ツイッター(http://mobile.twitter.com/search?q=jefftoshima)ではリアルタイムのマーケット情報に加えスキー、食べ物など趣味の呟きも。日経マネーでは「現場発国際経済の見方」を連載中。日本経済新聞出版社や日経BP社から著書出版。
業務窓口は jefftoshima@hyper.ocn.ne.jp
 豊島逸夫さん責任編集のムック本『不安を生き抜く!「金」読本』が日経BP社から発売されました。

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

セレクション

トレンドウオッチ

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン