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投信の手数料は、なぜ上がるのか

編集委員 北沢千秋

投資信託の手数料が上昇している。投信調査会社のリッパー・ジャパンによると、新規設定の国内公募投信の販売手数料(税抜き)は、4月に平均3.07%と過去最高となった。2003年ごろは1%台半ば程度だったから、この10年で2倍近く上がったことになる。デフレ時代には珍しい価格の上昇ぶりだ。一般の商品ならば、高い販売価格には性能やブランドといった付加価値があるのだが、果たして「高い投信」には値段相応の価値があるのだろうか。

仕組みはますます複雑に

大手証券によると、手数料率上昇の背景には商品の複雑化があるという。通貨選択型など仕組みの複雑な商品は投資家への説明に手間がかかるため、その分、販売コストもかさむという理屈だ。

通貨選択型については金融庁が今年2月、販売会社に対して投資家が為替変動リスクなどの商品内容を理解しているかどうか、書面で確認を取るという監督指針を打ち出している。「手数料と販売規制の強化は別の話」(大手証券)だとしても、複雑な商品が増えているのだから、販売の現場ではこれまで以上に説明に時間や手間がかかっているのは確かだろう。

実際に一部の投信はますます仕組みがわかりにくくなっている。例えば4月設定のある投信は、海外の不動産投信(REIT)を原資産に、高金利通貨の買い持ちとコールオプションの売りを組み合わせ、高利回りの確保を狙った「3階建て」の毎月分配型投信だ。投資家がこのファンドを本当に理解するには、REITやファンド・オブ・ファンズという基本的な事柄から、「為替ヘッジプレミアム」やら「カバードコール」といった技術的なことまで知らなければならない。よほど金融商品に詳しい人でなければ、目論見書を読んで仕組みを理解するのは至難に違いない。この投信の販売手数料は4%だ。

たとえ仕組みが複雑で手数料が高くても、そうした投信を買いたい投資家もいるのは事実だろう。ただ、それでも手数料率の上昇は見過ごせない問題をはらんでいる。投信が投資家にとってますますもうかりにくく、買いにくい金融商品になりかねないことだ。

4月新規設定の投信は、販売手数料に運用・管理の代価である信託報酬(平均1.13%)を加えると初年度の手数料が平均で4.2%になる。単純に考えると、運用でそれ以上の年間利回りを確保できなければ、1年後に投資家には利益が残らない計算になる。たとえ優れた仕組みの投信だとしても、今のような株安・低金利・円高の市場環境下では、なかなか厳しいハードルだ。

運用利回りのハードル高く

実際には、投資家が利益を得るにはもっと高い運用利回りが求められる。仕組みが複雑になるほど、デリバティブなどの取引にかかるコストも膨らむためだ。ある運用会社のトップは、「通貨のポジションやカバードコールなどを組み合わせると、販売手数料、信託報酬に取引コストを加えた実質的な負担は10%近くになるのではないか」と推測していた。

それでも高いコストをはね返して、投資家が安定的な利益を享受できるなら結果オーライだ。しかし現実には、残念ながら手数料が高いファンドの運用成績が必ずしもいいとは限らない。過去のデータからは、手数料の高さと運用成績にはあまり連動性がない、というのが業界の定説だ。

仕組みが複雑な投信は、購入層も限られるようだ。「投資経験が豊富で、ある程度利益が出れば素早く売却し、次のファンドに乗り換える投資家が中心」(リッパーの篠田尚子ファンド・アナリスト)。勢い保有期間は短くなり、一定の個人マネーがファンド間をぐるぐる回っているような感じだという。一部の投信は、「長期の資産形成手段」という一般的な投信のイメージとはどんどん遠いところに離れていっているかのようだ。

販売会社で重み増す投信手数料

「ここ数年、投信の販売目標が一段と上がっている」。投信販売の現場でこんな声を聞くことがある。一部の金融機関では、それだけ投信の手数料収入が重みを増しているのだろう。

例えば証券会社のリテール部門にとっては、委託手数料率の低下で「もうかりにくい商品」となった株式に代わり、投信販売が最大の収益源になっている。銀行にしても、投信よりうまみの大きい金融商品はあまり見当たらない。投信の販売手数料をいくらにするか、決定権を持つのは販売会社。業界全体のことではないにせよ、投信の手数料率上昇に、販売会社の利益確保の思惑を感じる関係者は多い。

今の投信の購入層で圧倒的に多いのは、退職金を手にした60代だ。これまではこの60代の人口増加が日本の投信市場の拡大を支えてきた。ところが2015年には60、70代の人口がピークを超えるという。団塊世代の先頭が65歳を迎える今年当たりから、退職金で投信を購入しようという人々も減っていく可能性がある。

限られた投資家を相手に、高い手数料や乗り換え販売で利益を上げるビジネスに持続性があるとは思えない。投信市場の持続的な拡大に何より必要なのは、多くの個人投資家に投資の成功体験を積み重ねてもらうこと。購入コストの上昇がその妨げにならないことを望む。

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