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人気の新投信、3年後に7割が平均下回る

編集委員・田村正之

「前回まで、国内外の株式や債券に分散して長期で持っていると『失われた20年』でさえ、資産を8~9割増やせたって話をしたよね」

「しましたっけ」

「したってば!」

「記憶のかなたにそんなことも……」

「……でも海外の株や債券って言われても、どう投資すればいいかわからない人も多い。だから今回からしばらくは、具体的にどんな商品を使って長期分散投資をすればいいかっていうことを考えていこう」

「バリバリもうかる商品を教えて!」

「いやその前に、ヨットの話」

「ヨット?」

 昔々のものがたり。
 おのぼりさんの一行が、ニューヨークの金融街を見学させてもらっていた。
 一行がウォール街にほど近いバッテリーパークへやって来ると、ガイドのひとりが停泊中のすばらしいヨットの数々を指さして言った。
 「ごらんください。あそこに並ぶヨットは、みな銀行家やブローカーのものですよ」
 気のきかない田舎者がこう聞いた。
 「お客のヨットはどこにあるのかね?」
 『投資家のヨットはどこにある?』(フレッド・シュエッド・ジュニア著、パンローリング社)より抜粋

「これってジョークか何か? わかるようなわかんないような」

「米国の金融業界ではよく知られたジョーク。金融商品を使うと、金融機関や投資信託運用会社などに手数料(コスト)を払うことになる。金融機関は手数料で潤ってヨットが買えるけれど、お客には何も残らないことが起きがちだってこと」

「ヨット欲しいな…」

「僕も。このジョークを紹介している『投資家のヨットはどこにある?』は昨年末に日本で発刊されたんだけど、米国で原著が書かれたのは、大恐慌のしばらく後の1940年。そういう本が、70年後の日本でもまだ必要とされてるってことなんだろうね」

「でも、いい商品だったら、手数料が高くてもしょうがないでしょ?」

「問題は、なにがいい商品かを見分けるのが、金融商品では簡単ではないってこと。例えば『新しくて、人気がある商品』っていうのは、金融の分野では必ずしもよい商品とは限らないんだ」

「新しくて人気があるのに?」

「家電とか自動車だと、確かに新しい商品は、省エネ性能や燃費に優れていることが多い。技術革新でコストが低下しているので、価格も性能の割に安くなってたりする。しかも、家電とか自動車は、何がよい商品か使った人の生活感覚でわかりやすいので、よい商品は口コミで広がってさらに買われたりする。つまり新しくて人気のある商品が、よい商品である可能性は結構ある」

「金融商品は違うの?」

「例えばここ十数年、モノの値段が下がるデフレ傾向が続いているけど、逆行して上がっているものがある。何だと思う?」

「私の……人気?」

「途中のタメは何? 答えの1つは、運用者の腕で市場平均を上回ることを目指すアクティブ(積極)型投資信託の保有コスト。正式には信託報酬っていって、投信を持っている間、日々差し引かれ続けるコストなんだ。投信にはこれとは別に、買う時に1回だけ払う販売手数料っていうものもある。でも長期で持つ場合は、ずっと引かれ続ける信託報酬の方が影響が大きくなってくる」

「その信託報酬が、上がったの?」

グラフAはQUICK・QBRが調べた設定年別の信託報酬の動き。国内株型も海外株型も、1990年代のはじめは年率で1%くらいだったのが、その後、年率1.5%くらいに上昇し、そのまま高止まりしている」

「私の評判も上がってほしいな」

「このコラムを読んでくれた人の中には、ハナちゃんのイラスト、『昭和の香り』がありますね、って声があるよ」

「ほめられてない気がする」

「この信託報酬って、運用コストとも呼ばれるから、全部運用会社の収入になるって勘違いしている人も多い。でも実は約半分は、販売した金融機関にずっと入り続ける。つまり信託報酬の高い投信は、金融機関にとって売るメリットが大きいわけ。90年代に、外国の運用会社が結構入って来て、日本の金融機関にたくさん売ってもらうために高めの信託報酬の商品をつくったことが、投信全体としてコストが上がったきっかけになったって指摘が多いよ」

「でも新しくて、人気のある商品なら、成績だっていいんでしょ? 成績がいいんなら、ちょっとくらい手数料が上がっても我慢するわ」

「ところが『新しくて人気の投信』の成績は、その後ふるわないことも多いんだ。グラフBは投信評価会社のモーニングスターに依頼して調べてもらったデータ。昨年夏に一度、日本経済新聞でも紹介したんだけど、その後データを一部更新してもらった。対象は99年度以降の各年度に設定された投信のうち、各年度末で純資産の大きい10本。その翌年度以降3年間の成績を、モーニングスターが選んだ類似分野の市場平均の指数と比べてみたんだ」

「ほとんどの年で、3年後には市場平均を下回った投信が多いですね」

グラフCは集計期間全体の総合成績だけど、73%が市場平均を下回っている。投信の成績は、さっきも話した保有コスト(信託報酬)を差し引いた後の数字なので、その分を考慮する必要はあるけど、コスト差以上に平均を下回っている投信も多い」

「『新しくて人気』なのに?」

「逆にそれが注意点。調査してくれたモーニングスターの朝倉智也代表は『新しい投信は、お客のお金が集まりやすい旬のテーマで設定されることが多い。でもそれは裏返せば、既にプロなど、多くの人が買ってしまっている分野だということ。残念ながら相場の波の高いところで買う結果になりがち』って話してるよ」

「例えば?」

表Dを見てほしい。ITがブームだった99年度では『デジタル情報通信革命』が翌年度以降3年間で年率35%下落し、東証株価指数(TOPIX)より13%も大きく下がっている。ほかのインターネット関連の投信もひどい成績だ。中小型株のブームが始まった04年度の『新成長株ファンド』もTOPIXより下落率が大きい」

「06年以降、中小型株ってかなり下げましたものね」

「君、ときどき不思議に詳しいね」

D それぞれの年度の新規設定投信のその後は?
ファンド名3年リターン(年率、
インデックスを下回
った場合が網かけ)
比較イン
デックス
トータル
リターン
インデック
スとの差
1999年度の新規設定
ノムラ 日本株戦略ファンド-26%-4%日本株
デジタル情報通信革命-35%-13%日本株
新世代成長株ファンド-28%-6%日本株
日興 エコファンド-25%-3%日本株
ダイワ・バリュー株・オープン-11%11%日本株
シナプス-35%-13%日本株
MHAM キャピタル・グロース・オープン-30%-8%日本株
netWIN GS・インターネット戦略ファンドA-39%-24%先進国株
DIAM 成長株オープン-29%-7%日本株
三菱UFJ 日本株グロースオープン-29%-7%日本株
2004年度の新規設定
GS ハイ・イールド・ボンド・ファンド1%-5%先進国債券
世界好配当株投信(年4回決算型)4%-2%先進国株
ノムラ ファンドマスターズ世界債券Bコース4%-2%先進国債券
ダイワ 隆晴(日本株式オープン)2%-0.3%日本株
新成長株ファンド-8%-10%日本株
ピムコ・グローバル・ハイイールド(毎月分配)3%-3%先進国債券
ワールド・リート・オープン(毎月決算型)7%2%先進国REIT
フィデリティ・グローバル好配当株ファンド7%1%先進国株
2007年度の新規設定
野村 世界高金利通貨投信-1%-3%新興国債券
野村 新世界高金利通貨投信0%-2%新興国債券
シュローダー・ラテンアメリカ株投資-4%-6%新興国株
JPM 新興国好利回り債投信(毎月分配型)0%-2%新興国債券
グローバル・カレンシー・ファンド(毎月)-6%-1%先進国債券
野村 グローバル・コントラリアンBコース-3%5%先進国株
野村 アクア投資Bコース-8%0%先進国株
日興・アバディーン・インフラ・ファンド-10%-12%新興国株

「なにせ読者にわかりやすいように設定されたバーチャルな話し相手なので、都合よく合いの手を入れられるの」

「難しくなると寝ちゃうけどね(笑)。05年から07年前半までは円安傾向だったほか、新興国株も上昇したから、この時期は外債型投信や新興国型が目立つけれど、やはりその後の成績はさえない。中でも新興国のインフラ関連や、高金利通貨など、旬のテーマで設定されたものは下落が目立つね」

「でもやっぱり、みんなが買ってるものって、魅力的に見えちゃうんですよね」

「そういう人間の心理って確かにあるから、金融機関はそのときそのときで『旬のテーマ』の投信をどんどんつくって売る。お客さんも、今まで持っていた投信を手放して『新しい、人気の投信』に乗り換えたりする。すると、販売金融機関としては信託報酬とは別に、販売手数料も新たに入るので、よけいおいしい」

「でも買う側にとってはそれが、高値づかみに終わっちゃう結果が目立っているってことですね。どうすればいいのかな」

「朝倉さんは『あえて新規投信を買う必要はない。本来は設定後ある程度の時間がたって、実際にどういう運用をしているか確認してから、コストなどを勘案して選ぶべきだ』って言ってるよ」

「新しい投信はみんな駄目なの?」

グラフB、C表Dでも平均を大きく上回っているものも見られるので、いちがいにはいえない。それに今回の集計対象には入っていないけど、いろいろな指数に連動して動く指数連動型(インデックス型)投信と呼ばれるものは、昔より大幅にコストが下がったものも新しく売られている。例えば信託報酬でいうと、新興国の株式に投資するような投信は今まで年間2%近いものが多かったのに、最近は年0.25%前後のETF(上場投信)みたいなものも買えるようになっている」

「安いのも出ているのね」

「でもそういう低コストの指数連動型投信は、なかなか大手の金融機関では積極的に勧められない。モーニングスターのさっきの調査は各年度末に資産が大きい、つまり売れ行きが大きい10投信を対象にしたものなんだけど、実にその100%が、コストの高いアクティブ型投信」

「販売する金融機関は、どうしても手数料の高いアクティブ型を売る方に力が入っちゃうっていうことなのかしら」

「そういう指摘が多いね。冒頭のヨットの話が載っている本を監修したのは、投資評論家の岡本和久さん。岡本さんは外資系証券会社の経営者などを経て、今は個人向けの投資教育会社『I-Oウェルス・アドバイザーズ』を運営している。岡本さんは自分の金融業界での長い経験を踏まえて『日本の個人向けの金融商品の販売においては、販売会社の影響力が、運用会社に対しても、そして投資家に対しても大きすぎる』と話してるよ」

「……」

「何か考え込んでるね。金融業界の現状について?」

「……誰か、私にヨット買ってくれないかな、って」

「そっちか(泣)」

「泣かないでも。ところでこういうの、日本だけ?」

グラフEもモーニングスターの調査(米国は米国株投信、日本は日本株投信が対象)。米国も、単純に平均すると、運用コストはむしろ日本より高いんだけど、売れている金額の大きいものの比率を勘案する加重平均という計算方法でみると、日本よりかなり低い。つまり単純平均では日本より高くても、コストの低いものを選んで買う人が多いので、加重平均だと安くなってるってことだね。日本の個人も、金融商品のコストに関してはもっと敏感になってもいいかもね」

「そっか……。特に金融商品については『売れている、新しいものがよい商品』という思い込みを捨てないと、私たちもずっと、ヨットを買えないままになっちゃう可能性があるのね」

「これは投信だけでなく、外貨運用の商品でも、保険でも、金融商品全般にあてはまる話なんだ。金融は売り手と買い手の情報格差が激しい分野だっていうことが根底にあるんじゃないかな」

「情報格差か。私の美貌(びぼう)の真実が、昭和の香りのイラストじゃ読者に伝わらないのと同じね」

「それはどうでもいいけど、前回まで話した長期分散投資を実行していく場面でも、運用の中心部分は低コストのインデックス投信を使う傾向が、年金など機関投資家の間では強まっている。次回は、対面型の金融機関ではあまり積極的に勧めてくれない、具体的な低コストの投信の名前や買い方を紹介するね」

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