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日本国債の下落不安 リスク減らす投資術

編集委員・田村正之

 個人が分散投資するうえで重要な資産の1つであるはずの日本国債。財政の悪化で値崩れのリスクがささやかれ、投資を断念する人も多い。しかし実は投資のやり方次第では、仮に急落があっても一定の時期がたてば回復が見込まれるという、債券ならではの不思議な仕組みがある。

「財政のひっ迫で、これからどうなるかみんなが不安視しているのが日本国債。ハナちゃんはどう思う?」

「悪い人って魅力があるので、一緒に堕ちていこうって感じですかね」

「なんだそりゃ……。とにかく、日本国債は長期分散投資を考えるうえでとても大切な要素。ただこんなふうに『いつか急落するかも』ってイメージが広がると、個人投資家の中でも『怖いからやめとこう』って考える人は多くなっている。でもよく紹介されている元本割れのない個人向け国債だけでなく、実はインデックス型などの債券投資信託を使うことで、リスクを抑える方法もあるんだ」

「そもそも、不安があるんなら投資しなくてもいいじゃないですか」

「さっきは『一緒に堕ちていこう』って言ったくせに。その点は考え方次第だけど、株よりも変動が少なく、為替リスクもない自国の国債のような資産は、ポートフォリオの一部に入れておくことでいざというときに大きな頼りになることが多いよ」

「例えば?」

グラフAは2008年のリーマン・ショック後の値動き。国内外の株式や外債が大きく値を下げ、『何に投資しても駄目』と言われた中で唯一無事だったのが日本国債などの日本債券。1987年のブラックマンデー、2000年のITバブル崩壊時も、日本債券は安全資産として買われ、ポートフォリオの下支えになった。グラフBで過去30年の成績(金利と価格変化の総合リターン)を見ても、着実にリターンは積み上がってきた一方で、値動きのブレ(リスク)は極端に少なかった」

「リターンの割にリスクが小さいって……。日本国債が男性だったら結婚したいくらいだわ」

「ワケがわからない例えをしないように。でも当然ながら、過去に好成績だったから今後もいいとは限らない。まず知っておきたいのは、債券ってのは、金利が下がると価格が上がるし、逆に金利が上がると価格が下がるってこと」

「え? 金利が上がるとお得だから価格が上がりそうだけど?」

「そういう誤解がかなり多いね。感覚的に説明すると、例えば世の中の金利が1%のときに、毎年1%の利息がつくAという債券が発行されたとする。その後、世の中の金利が3%に上がったとき、新たに利息3%のBという債券が発行されたらどうなる?」

「価格が同じだったら、誰でも利息の高いB債券を選ぶわね」

「だから最初に発行された利息1%しかないA債券は人気はなくなって、価格が下がっちゃうってわけ」

「要するに『金利と価格は逆に動く』と思ってればいいのね」

「そう。グラフBで債券のリターンが上昇してきたのは、金利低下局面が長く続いたっていう要因もある。今後は逆に、財政悪化でいつか金利が上昇し、価格が下落するんじゃないかって心配されてるわけだよね」

「なんか難しそうな話になりそうで怖いけど、日本の財政ってどんな感じなんでしたっけ?」

「その点はさんざんあちこちで解説されているから、さらっと要点だけ話すね。今の国と地方の長期債務残高は約870兆円で、GDP(国内総生産)の約1.8倍。欧米が軒並み1倍以下なのに比べ突出している。今は国債の約95%は国内で買われている」

「ほかに有利な投資先ってないし、低い金利でもみんな買うものね」

「直接的な買い手は金融機関だけど、背景にあるのは個人の預貯金だ。でも今後貯蓄を取り崩す高齢世帯が増えていくと貯蓄残高が減り、一方で国債残高が増え続けていくと、いずれ国内の資金でまかなえなくなり、外国人に買ってもらうために高い金利が求められるようになる可能性がある(グラフC参照)。SMBC日興証券の末沢豪謙チーフストラテジストは『そういう時期は2015年以降、来るかもしれない』と見ているよ」

「やっぱり国債が男性だとしても結婚しない」

「なんだそりゃ。でもプロの間では、もし『何年か先に金利が上がるとしても、当面は欧米並みの水準に上がる程度』(末沢さん)って声が多いよ。だって欧米よりさらに極端に上がれば、国内機関投資家は為替リスクをとって海外で投資している分を、為替リスクがなくて金利が欧米並みになった日本国債に振り向けるだろうからね」

「ギリシャみたいに暴落しないの?」

「その点はこの原稿の最後にもう一度触れるけれど、国債を巡っては、そういう『暴落があるかないか』というシロかクロかの議論が多すぎる気がする。そういう可能性があるかもしれないからといって、さっき紹介したような、資産運用で重要な役割を果たしてきた日本国債を、まるっきり排除するのはもったいないんじゃないか、というのが今回のテーマ」

「でも欧米並みの金利でも、上昇したら価格が相当下がるんでしょ?」

「いろいろな金利の上昇パターンごとに、日本国債に投信を使って投資していた場合に投信の基準価格がどう変化するか、試算してみた。実は2010年の5月にも同様の試算を日本経済新聞で紹介したんだけど、スペースが限られていてデータの一部しか見せられなかった。今回は、なるべく多くのパターンを考えてみる」

「飽きない範囲にしてね」

「試算の前提としたのは、組み入れ債券の投資金額が償還までの年数(1~10年)ごとに同じ金額になるようにする手法。残り1年だった債券が1年後に償還されると、その資金で新たに残存期間10年の債券を購入するという具合。図Dを見てね」

「なんか、ハシゴを横に倒したみたい」

「まさにそうでしょ。だからこうした運用を『ラダー(ハシゴ)型運用』と呼ぶ。金利変化のリスクを減らすために多くの債券型投信が採用している手法なんだ」

「で、どうなるの?」

グラフEでは、当初の金利が1%、投信の基準価格が1万円だったとして計算した。例えばbは1年後に金利が一挙に3%に上昇、その後一定だったケース。金利が上昇すると債券価格は下がるので、投信の基準価格は1年後は約7%下落する。でも時間がたつにつれ、1%の低金利時代に発行された債券はどんどん償還されていき、利率3%の債券の組み入れが増えていく。たくさん利息が入るようになって投信の価格は上向いていく」

bの場合、4年後ぐらいには元本を回復して、その後も上昇を続けていますね」

「そう。途中では価格が変動しても、満期には額面の金額が戻ってくるという債券ならではの仕組みが背景にある。株価がいつ戻るか分からない株式との違いだ。債券には、残存期間が短くなると価格が上がるっていう『ロールダウン効果』(難しいので説明は省略)もあるしね。……ハナちゃん? 大丈夫?」

「……難しくなると眠くなるの。……もっと大幅な金利上昇があれば?」

fの『1年後に7%に上昇し、その後も2%ずつ上昇』っていうかなり極端なケースでも、7年ぐらいで元本を回復するし、回復後の上昇も急ピッチだ。ハナちゃん、起きて」

「……起きました。でもなんだかウソくさい」

「失礼な。でも確かに、こういうシミュレーションってのは、作り手に都合のいい設定にすることもできる。じゃあ過去の現実の金利の動きだとどうなったのか、三菱UFJ投信の井上裕さんに作ってもらったのがグラフF。折れ線が、それぞれの時点からその5年後までに、金利がどれくらい変動したかを示す。例えば2000年8月の○印の部分だと、その後5年、つまり05年7月までに金利が0.3%下落したことを示す。折れ線がゼロより下にあるのは、その時点から5年後までに金利が下落していた時期。……ハナちゃん?」

「……」

「まあいいや。一方の棒グラフはその時点で投資した場合の5年間の年率のリターン。○印の部分の場合は金利下落局面ってこともあって、年1.2%のプラス(投信の信託報酬を年0.45%差し引いた後なので、もともとのリターンは年1.65%)だ。さて問題は金利上昇期。この期間で最悪だったのは10年物国債で金利が一時年約0.5%と今よりもさらに超低金利だった03年半ばに投資した場合。グラフで『最悪期』とした時点だね。その後5年間で金利は1.1%上昇したことが折れ線の位置で分かる。ハナちゃん、寝てる?」

「……」

「……5年間持った場合のリターンを縦棒で見ると、年率で0.08%のマイナス(信託報酬を足し戻すとプラス0.37%)だ。でも、逆に言えば、金利の上昇期(折れ線がプラスの時期)でも、棒グラフが上に伸びていることでわかるように、5年間持つと大半はリターンはプラスだった。……ハナちゃん、起きろ! こんなとこで寝ちゃだめだ」

「……うるさいですね。雪山の遭難じゃないんだから。要するに結論は?」

「過去の場合、5年間で1%強っていう限られた金利上昇ではあったけど、こういうラダー型運用の場合、やはり中長期では大きな痛手はなかったってこと」

「ちょっとイメージが変わったわ」

「投資するかどうかは個人の判断だけど、(1)過去の株価の暴落時には支えになってきた(2)ラダー型投資なら、下落しても時間がたてば回復が見込めることが多い――という2点は、知ったうえで判断すべきだと思う」

「どうしようかしら」

「もちろん、確かに日本国債には下落リスクもあるので、それに備えて外貨建て資産を持っておくのも同様に大事だよ。しょせん資産ごとの値動きを予想するのは困難だからこそ、分散投資が必要なんだ」

「日本の債券の投信を使うなら、ラダー型投信じゃないと駄目?」

「ラダー型以外でも、債券の指数に連動するインデックス型と呼ばれる投信なら、やはりいろいろな残存期間のものに分散して投資されていて、時間がたつごとにどんどん入れ替えていくっていう意味では同じようなもんだ」

「具体的な投信は?」

表Gに主なラダー型とインデックス型の投信を載せておいた。ニッセイ日本インカムオープンのように、社債中心のラダー運用でより高めの利回りを目指すものもある。ただ債券投信の場合、特定の残存期間を厚めに投資するようなタイプのアクティブ型だと、必ずしも今回のシミュレーションのような結果にはならないことも知っておいて」

「あのぅ……。今まで金利上昇の話をしてきたけど、それを超えてそもそも債務不履行(デフォルト)になれば?」

G 主なラダー型とインデックス型の投信
商品名投資対象信託報酬
(年率、%)
ラダー型ダイワ日本国債ファンド最長15年程度の国債0.32~0.74
三菱UFJ日本国債ファンド最長20年程度の国債0.45~0.68
ニッセイ日本インカムオープン信用力の高い社債中心0.45~0.89
インデックス型eMAXIS国内債券インデックス債券の代表的指数である「野村BPI総合」に連動0.42
STAM 国内債券インデックス・オープン0.42
野村インデックスファンド・国内債券0.42
CMAM日本債券インデックスe0.39

※信託報酬に幅がある場合、現在のような低金利時はおおむね最低水準の数字

「そうなればもちろん、話は別。でも現時点では『そこまで心配するのはあまりに時期尚早』(日興の末沢さん)」という声が多い。例えばグラフHはギリシャ国債の海外投資家保有額。昔は低かったのが、ユーロ加盟などを背景に安心感が出てどんどん高まっていった」

「債務の拡大を支えたのは海外勢だったのね」

「そう。暴落はその後、海外勢が売却したことで起きている。『日本も暴落やデフォルトという極端な現象が万一起きるとしてもだいぶ先だし、その前には、海外投資家の保有比率がいったん高まるという明確なサインが出る』(JPモルガン・チェース銀行の佐々木融債券為替調査部長)との見方が多いよ。ただしリスクが高まっているのも事実だから、そうならないように税・財政改革をどう実行するか、みんなで議論しないとね」

「たまにもっともらしいこと言いますね」

「……」

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