トヨタ、小沢哲副社長「日本のものづくり基盤の崩壊が始まっている」
トヨタ自動車は9日、2012年3月期の連結営業利益が前期比57%減の2000億円になる見通しと発表した。同社は1カ月前の4~9月期決算発表時に、タイの洪水の影響などが不透明だとして従来見通しを取り下げていた。取り下げ前の予想に比べ2500億円少なく、タイ洪水の影響で1200億円、円高の影響で1900億円の減益要因になった。同日会見した小沢哲副社長は「全ての通貨に対して円高が進んだ」と語ったうえで、「日本のものづくり基盤の崩壊が始まっている」と述べた。主なやりとりは以下の通り。
――8月(に発表した)時点の見通しから下方修正しているが総括、評価は。

「まずはタイ洪水の復旧に関して関係者の方々に改めて感謝を申し上げたい。東日本大震災に続いてタイ洪水では日本のものづくりの底力を感じた」
「同時に、ものづくりの基盤である電子部品は既に海外生産に依存しており、特定の部品については既に国内が空洞化しているという事実を目の当たりにした。円高により日本のものづくり基盤の崩壊が始まっている状況を垣間見ることになったことはショックだった」
「改めて超円高の影響の大きさを再認識せざるを得なかった。わずか3カ月、4カ月の間に(連結営業利益ベースで従来予想比)1900億円も為替の影響でマイナスを出さなければいけなかった。(前期比較では)3500億円も出てしまった。トヨタ自動車の為替エクスポージャーが大きいということもあるが、輸出立国を国是としている産業が危機にさらされているのではないか」
「収益について整理すると、今期の予想のうち、一時的な(営業利益へのマイナス)影響がタイ洪水で1200億円、震災関連で1600億円入っている。為替は1ドル=85円から78円になっており、その他の通貨も比例して上がり、その影響が2800億円だ。つまり本来なら5600億円稼げていた」
「(仮に)為替を85円とした場合の実力は7600億円で、13年3月期までに750万台の販売で1兆円を稼ぎたいという長期ビジョンに対してはオンラインだ。収益改善が進んでいることが明確になっているといえるのではないか」
――円高が進んでいるが、国内生産についての考え方は。
「1カ月前に述べた通り、社長が石にかじりついてでも300万台の日本生産は守ると言っている。日本の雇用・生産基盤を守るために。私の役割はそのかじりつき方を考えること。例えば昨年は国内販売が130万台、輸出が180万台で計310万台だった。これを少なくとも国内150万台、海外向けを150万台の販売にすることで為替のエクスポージャーを減らしていきたい。またエンジンやトランスミッションなど部品をユニット生産することで日本生産を弱めて、海外で作るものについては調達も海外シフトするということをやっていきたい。日本から輸出しているものを現地調達することも進める。バランスをとるということをやっていきたい」
――タイ洪水で23万台の生産減少というのは、想定よりも少なくて済んだのか。
「タイの影響について、トヨタ・レクサスの生産台数でいうと12月までに26万台の影響があった。日本国内で7万台。タイ本国で16万台。それ以外のアジア・北米の影響が3万台だ。アジアその他や北米の3万台については挽回のメドが既に立っている。残りは国内の7万台とタイの16万台で23万台。ようやく(替えの効きにくい)重要な部品について、1~3月の高い需要に対してなんとか(調達が)つながるめどが付いたという状況だ」
「今後はタイがどの程度確保できるのか。日本での増産が時間との関係でどの程度できるのか。再挽回の台数を極大化するようにやっていく」
「正直、当初は倍以上、つまり1カ月以上の売り上げがなくなるリスクがあるとの見方もあった。50万台、60万台とも考えていた。想定以上の皆さんの頑張りでこうなった。ありがたいことで、感謝している」
――サプライチェーン(供給網)が崩れ、(トヨタの強みである)カンバン方式に揺らぎが出ているのか。
「いわゆる機械工学の範ちゅうで判断できないもの、例えばロットやリードタイムが違うために1個ずつの生産ができない部品については、それぞれの生産の仕方に応じて対応しなければいけないというのが、震災や洪水で勉強したこと。在庫を確保するのは基本、TPS(トヨタ生産方式=カンバン方式)の精神にあっているのではないか。在り方が問われていることは全く無い」
――ヨーロッパや新興国の需要動向をどう見ているか。
「欧州の混乱については非常に大きくとらえている。1つは欧州市場。南欧については急速に購買マインドが冷えているというリポートが上がってきているが、ドイツは引き続き活況。欧州市場については(金融混乱の影響は)限定的だ」
「2つ目は欧州の銀行が自己資本を厚くするために新興国から資金を引き揚げる信用収縮によって、新興国がリセッションに陥ること。3つ目は(それによって)新興国の通貨が円に対して非常に弱くなることだ。ドルに対してだけでなく他の通貨も円に対して弱くなるというのは、我々のオペレーションに影響を与える。3つ目については既に影響が出ている」
「2つ目に関しては、10月くらいから影響が出ているのではないか。例えば中国では、10月は市場が前年を割れた。ロシア、ブラジル、インドなどBRICsも市場が陰りを見せている。どのような形で推移するのか我々も非常に注視している。来年、再来年の計画を策定中だが、どう織り込むか腐心しているところだ」
(三田敬大)
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