3次元印刷機に見る新世界 工房で仲間とものづくり
C世代駆ける 番外編

2012/3/28付
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データをもとに立体を造形する3次元プリンターが注目されている。英エコノミスト誌は昨年、3次元プリンターを「世界を変える新技術」として特集した。田中浩也・慶大准教授(36)はこの技術に将来性を感じ、3次元プリンターやレーザーカッターなどを備えた市民工房「ファブラボ」を米国から日本に持ち込んだ。紙などの平面に印刷する通常のプリンターとは全く異なる3次元プリンターはどんな機械なのか。田中准教授に「ファブラボ鎌倉」を案内してもらった。

3次元印刷機を操作する田中准教授(鎌倉市のファブラボ鎌倉)

JR鎌倉駅から徒歩5分。閑静な住宅街を歩くと「蔵」のような、ひときわ目立つ建物が見えてくる。ここが昨年5月に開設された「ファブラボ鎌倉」(神奈川県鎌倉市)だ。秋田県で酒蔵として使われていた築120年の木造建築を移築した。2階建ての構造で、1階には会議などに使う広いテーブルがあり、2階は工作機械などが並ぶ作業スペースとなっている。2階には小学生が工作機械で作ったパズルなどが並んでいた。

田中氏がファブラボ鎌倉を立ち上げたきっかけは、マサチューセッツ工科大学(MIT)のニール・ガーシェンフェルド教授による著書「ものづくり革命/パーソナル・ファブリケーションの夜明け」を読んだこと。3次元印刷などの機械の普及によって、個人によるものづくりや少品種少量生産が広がる可能性を示した内容に「インターネットに匹敵する革命だ」と感銘を受け、渡米してガーシェンフェルド教授に学んだ。「パソコンはもともと大学などの大きな計算機だったが、現在は1人1台持つようになった。3次元プリンターもいずれ一家に1台という時代が来る」と田中氏は読む。

さて話題の3次元プリンターはどれか。田中氏に聞くと、壁のない箱のような、四角い枠組みでできた機械が示された。意外に小さく簡素な作りにみえる。メーカーの作った大型の機械とは異なるが、動かせば一人前。線状にして巻いてあるABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)樹脂をセットし、作りたい物の電子データを読み込むと、溶けた樹脂が造形されて箱の中に立体が現れる。

3次元プリンターは3年ほど前までは1台200万~300万円と高額で、企業のデザイナーが試作品のチェックなどに使っていた。しかしベンチャー企業による開発により、米国では最近は10万円程度の製品も登場し、ホームセンターなどでも販売されているという。田中氏は「100円ショップで販売しているような製品や、ドアの修復などに使う簡単なDIYの材料なら、データさえあれば3次元プリンターで気軽に作れるようになる。将来はデータで物が普及する時代になるかもしれない」と話す。

ファブラボは米国発祥で、世界20カ国、70カ所以上に広がっている。レーザーカッターなど数種類の工作機械を備え、世界中のファブラボとテレビ電話などを通じて連携するのが特徴で、使われ方や組織形態は地域ごとに異なる。例えばインドのファブラボでは小学生がアンテナを作って地元の生活の近代化に役立っているケースもあるという。日本では昨年5月に鎌倉市と茨城県つくば市の2カ所がオープンし、今後も増える見通しだ。

記者が訪れた「ファブラボ鎌倉」にはデザイナー、学生、市民などが集まる。年代は20~30代が中心だ。様々な工作機械を使い、世界や日本の仲間とつながりながらアイデアを広げる場所として活用されている。田中氏はファブラボの機能として、(1)リサーチ・ラボ(研究施設)、(2)コミュニティ・ラボ(市民の交流施設)、(3)インキュベーション・センター(新ビジネスなどの支援)の3つを掲げる。「先進国は大量生産、大量消費、大量破棄を進めてきた。しかしもはや大量生産ではコスト面などで中国などにかなわない。必要な人が必要な物だけを作る時代になる」として、ファブラボの役割に期待する。

日本で販売されている3次元プリンターはプロや研究者向けが中心で、ファブラボもまだ数が少ないため、日本で一般市民が3次元プリンターに触れる機会が来るのはしばらく先かもしれない。しかし「ファブラボ鎌倉」を訪れてみて、コピー機と同じように3次元プリンターで簡単に立体が作れるようになれば面白いだろうと将来性を感じた。

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