製造受託 先行投資の誤算 岐路に立つ富山医薬品産業(上)

2011/9/15付
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世界同時不況による深刻な景気低迷の中でも、比較的堅調を保ってきた富山県の医薬品産業が大きな岐路に差し掛かっている。富山県の医薬品生産額は2009年に5735億円と、静岡県を抜いて全国2位に浮上した。ただ、足元では成長をけん引してきた大手医薬品メーカーからの受託や後発薬の販売で競争が激化しており、楽観できない状況もみえはじめた。富山の医薬品産業は今後も持続的な成長を維持できるのか、検証する。

呉羽工場には生産設備を入れるための空きスペースがある(富山市)

富山市中心部から車で約30分。立山連峰を臨む呉羽丘陵に10年4月、富山を代表する医薬品メーカーの一つ、広貫堂(富山市、塩井保彦社長)の最新鋭工場、呉羽工場が完成した。4ラインまで入れられるが、完成から1年半たった現在、稼働しているのは1つだけ。工場内では明かりのついていないスペースが目立つ。

「将来用」――。工場内の空調機にはこうしたただし書きされた紙が貼られている。荒井幹雄工場長は「すでに配管などの設備は整えている」と、大手医薬品メーカーからの委託生産を受注さえすれば、迅速に対応できることを強調する。工場隣には約2万平方メートルの空き地もあり、一段の増築も可能だ。

■減価償却で赤字

約50億円を投じた呉羽工場。塩井社長は「急速に受注競争が厳しくなっている」と、悩みを打ち明ける。医薬品の受託は契約が確定してから体制を整えていては時間が足りず、先行投資が求められる。新規案件が獲得できず工場の稼働率が低迷すると減価償却負担は重くなる。

同工場の償却負担は年間約3億円。広貫堂は11年3月期に約2億円の経常赤字に転落した。同社の赤字は12年ぶりだ。今後5年間のうちに負担のピークを迎え徐々に減っていく見通しだが、受注が上向かなければ、業績の重荷となる。

広貫堂と同様、富山の医薬品メーカーの多くが先行投資の償却が負担になり始めている。

東亜薬品(富山市、中井敏郎社長)も約40億円投資して固形剤を生産する西本郷工場第二製剤棟(富山市)を09年12月に稼働した。だが「今のところ、3分の1ほどは空いている」(同社)という。先行きの不透明さや減価償却負担をにらみながらの経営に迫られ、検討していた管理棟の建設をこのほど取りやめた。

苦労して受注しても、実際の生産量はコントロールできない。第一薬品工業(富山市、寺田敦社長)は09年に約6億5000万円投資した一般用医薬品の生産ラインの稼働率が「想定よりも低い」(寺田社長)という。

05年の改正薬事法施行後、他社に全面的に生産を委託することが可能になった。

これを機に製造コストを抑えたい大手医薬品からの受注を獲得しようと、富山県内メーカーは相次ぎ生産能力の拡大に乗り出す。富山県によると、10年の県内の設備投資額は09年比66%増の221億円に達した。

想定外だったのは、東日本大震災の発生と国内大手医薬品メーカーの海外シフトの加速だ。一度取引関係を作れれば、信頼感を高めて一段の受注拡大につながる期待もあったが「リスク分散のため、大手は1社に全てを任せなくなっているほか、内製化も進めている」(民間調査会社の北陸経済研究所)という。

■自治体も支援

ここにきて自治体や業界団体も支援に動き出した。富山県と業界団体、富山県薬業連合会(富山市)は6~7月に開かれたアジア最大級の医薬品の国際展示会に初めてブースを設置。ホームページも刷新、錠剤や液剤など委託したい薬の形別に企業を検索できるような仕組みを整えた。

このままでは全体が衰退する――。こんな危機感を共有し始めた富山県の医薬品業界。だが、受注環境の急変にどう対応するかについて各社とも決め手はまだ見いだせていない。

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