海の魅力再評価 瀬戸内新時代(1)
島々「横の連携」で誘客 香川県観光協会会長・梅原利之氏
「瀬戸内」をキーワードに地域活性化を目指したり、新たなビジネスに取り組んだりする動きが加速している。香川、岡山県の自治体が連携して開催した「瀬戸内国際芸術祭」のように国内外から人をひきつける取り組みが登場。中四国の事業者が組んでサービスを提供する動きも相次いでいる。活性化のキーパーソンに瀬戸内海の魅力や今後のあり方について聞いた。初回は香川県観光協会の梅原利之会長。

――なぜいま、瀬戸内海なのか。
「かつて瀬戸内海沿岸は工業地帯として栄え、浅瀬の埋め立てや砂利の採取で環境という意味では汚れてしまった。環境保全のための特措法の施行や、自治体による砂利採取の規制などで、かろうじて死なずにすんだ、というところだ」
「そもそも瀬戸内海は遣唐使などが通ってきた日本の文化や歴史の通り道だ。観光資源としてだけではなく、船や島について海洋国家である日本があらためてその意義を考えるきっかけにもなるはずだ」
――2010年の国際瀬戸内芸術祭は国内外から90万人以上が訪れた。瀬戸内海の魅力は。
「とにかく美しい。個人的には、人工島が多いイタリアのアドリア海や、石灰岩の島が中心のエーゲ海よりも圧倒的に美しい」
「特筆すべきは、島の一つ一つに固有の生態系が存在していることだ。島固有の花が咲いていたり、昔ながらの独特な生活習慣などが残る。こうした内海は世界的に見ても珍しく、観光資源としてのポテンシャルは富士山を超えると思っている」
――なぜ今までこうした動きが出なかったのか。
「瀬戸内海の島々はそれぞれ近接地の市町など基礎自治体が行政を管轄している。どうしても離島対策という観点でしか施策が出てこなかった」
「瀬戸内芸術祭では、行政や民間企業、ボランティア、島民などが初めて横に連携し、瀬戸内海と島、現代アートを一体としたイベントにすることができた。取り組みとしては大成功だ。同じ年に開いた『船の祭典』でも、こうした横の連携が生きた」
――今後の瀬戸内海の開発の方向性はどうあるべきか。
「キーワードは『島民とともに』だ。瀬戸内芸術祭の成功も、アーティストやボランティアが間に入り、観光客と島民をつないだことが大きい。それぞれの島に島民の暮らしや知恵があり、単にイベントの経済効果だけではない価値を双方にもたらすことができる」
「およそ3000ある瀬戸内海の島々のうち、有人島は160程度。その島も人口の急減や高齢化という問題を抱えている。ただ単に、遠くから見た景色が美しい、というだけではなく、こうした島、島民と一緒になって観光・文化資源としての開発を進めるべきだ」
海外での知名度向上が課題
瀬戸内海は島ごとに行政区分の市町が異なっていたり、海上交通の管轄が国だったりして、かかわる主体が極めて多いことが、まとまりのある施策を打てない理由の1つだった。
しかし、最近では瀬戸内クルージングを新たな目玉にしようと、関西圏から九州までの運輸局がかかわる形での航路開発の検討も進む。
西日本旅客鉄道(JR西日本)が四国旅客鉄道(JR四国)などと組んで共同切符を売り出すなど事業者の協力も広がる。瀬戸内は外国人の訪問先としては秋葉原、富士山、京都などと比べると知名度が低い。どう売り込むか、知恵が試されている。
(高松支局 嶋田有)