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全国一 「飛び出し坊や」看板、滋賀県になぜ多い?

「おじいさん」や「おばあさん」も

 滋賀県内を車で走っていると、やけに目に付く看板がある。子供の形をかたどったもので、これといった文字も書かれていない。設置数は日本一ともいわれるこの看板。いったい何なのだろうか。なぜ滋賀県にこれほど多いのか。
通学路の交差点や車から見えにくい路地で「飛び出し坊や」が子供たちの安全を見守っている

まず滋賀県警本部に尋ねると「飛び出し坊やのことですか?」との回答。「今にも子供が飛び出してくるポーズをしてるでしょ。運転者に注意を呼びかけてるんですよ」と、交通企画課の熊谷浩一・総括管理官が教えてくれた。

他府県ではあまり見ないと指摘すると「幼いころから見慣れているので気にしたことがないけど、そんなに多いですか? 発祥の地だからかもしれませんね」。

その地は、旧八日市市(現東近江市)という。早速、訪れると確かに飛び出し坊やが多い気もする。いったいどのくらいあるのか。

大河ドラマの舞台PR「お江ちゃん」

小学校教諭で滋賀大学大学院で研究もする田中美穂さんが足で調べた。「東近江市に近い愛荘町では5~15軒に1体でしたが、大津市にある大学周辺は100軒に1体ほど」。地域でバラツキはあるようだ。よく見かけた場所は「小学校や保育園の周辺かな」というのが田中さんの印象。ほかに「幹線道路から1本奥に入った場所」「通学路」「運転者から見えにくい路地」「区画整理が進まなかった地域」などの答えが集まった。

実際に設置するのは交通安全協会や自治会、PTA。地域の危ない場所を選んでいるようだ。守山市のように「要望があれば市の予算で購入します」(市民生活課の西川孝司さん)という自治体でも、設置は住民に任せている。

五個荘で活躍「近江商人」
高齢化の街では「おじいさん」

飛び出し坊や誕生の経緯を聞こうと、生みの親とされる久田工芸(東近江市)代表の久田泰平さん(71)を訪ねた。「子供の事故防止に役立ち、安くできるものをっていう相談が始まりだった」と明かす。「見てパッとわかるモノを考えた」が、なかなか思いつかない。ようやく出てきたのが「目を引きやすい赤や黄色を使い、今にも走り出しそうな子供のポーズ」。

注文した側の東近江市社会福祉協議会に聞くと「1973年に発注した記録があります」と真弓洋一地域福祉課長。これが発祥の地の証拠だ。「当時は急激に車が増え始めた。高速道路のインターが近く、県外からの車も多くなり、事故の恐れが高まっていたんでしょう」と説明してくれた。

第1号から40年近く。飛び出し坊やの種類もいろいろ登場した。作製する事業者は久田工芸のほかにもあり、デザインが違う。それを買う自治会もあれば、独自に作る例もある。夏休みの交通安全教室に参加し、親子で作り設置した思い出を持つ人も多かった。

◇            ◇

甲賀の空中駆ける「忍者」

地域らしさを取り入れたデザインも多い。滋賀が舞台の1つのNHK大河ドラマにちなんだ「お江(ごう)ちゃん」、商人が活躍した五個荘には「近江商人」、甲賀市には「忍者」。高齢化が進む地域や高齢者施設前には「おじいさん」「おばあさん」、女子高生バンドのアニメ「けいおん!」で有名になった豊郷町には「女子高生」といった具合だ。

「冬には帽子をかぶせてもらっていた」「壊れていたのに翌日には修理されていた」など、飛び出し坊やに関する話はいくらでも聞けた。1つ1つに、地域を思いやる気持ちが透けて見える。「地域の子供や高齢者は、地域で守るという意識の表れなんでしょう」と県警の熊谷管理官。

滋賀県の人は運転中に飛び出し坊やを見かけると、無意識に速度を落とすという。一方で、なじみの薄い県外の運転者は、坊やにハッとして周辺を注意する。風景の一部となった飛び出し坊や。安全を願う地域の思いを背に今日も県内各地で目を光らせる。

(大津支局長 蓮田善郎)

[日本経済新聞大阪夕刊いまドキ関西2012年11月21日付]

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