/

旗幟鮮明、南朝の夢 吉野の堀家に伝わる日章旗(時の回廊)

奈良県五條市

奈良県五條市、吉野山地の北西にある「賀名生(あのう)の里 歴史民俗資料館」に古びた絹の日章旗が展示してある。資料館の隣にある旧家、堀家に「南北朝時代(14世紀)後醍醐天皇から賜った」として、代々伝わったものだ。桐(きり)箱に畳んで収めてあり、広げると縦95センチ、幅75センチの幟(のぼり)旗という。白地は傷みが目立つが、日の丸の赤は今も鮮やかさを保つ。

賀名生には、足利尊氏に京を追われた後醍醐天皇が一時滞在。南朝の皇位を継いだ後村上天皇は、ここに皇居を置いたとされる。堀家は南朝を支えた有力な土豪だった。

「日月像」など諸説

この旗については江戸時代、松平定信が全国の古美術品を調べて編纂(へんさん)した図録「集(しゅう)古(こ)十種」にも「後醍醐天皇所賜御旗」と記載がある。事実なら現存する日の丸では一、二を争う古さだが「これ以前の文献は見当たらず、あくまで伝承です」と同市教育委員会の小笠原彰さんは話す。

日章旗が日本の国旗となったのは、江戸幕府が御用船の旗としたことに由来する。「白地に赤い丸」の意匠自体は戦国期に武田氏などが旗印に用い、江戸期には一般にも広まったが、その起源には諸説ある。一つは古代中国から四神像などと共に伝わった「日月(にちげつ)像」との説だ。

奈良県明日香村の高松塚、キトラ両古墳壁画(7世紀末~8世紀初め)などには日を金箔、月を銀箔で表現し、中に3本足の烏(からす)などを描いた図像が見える。続日本紀には8世紀、平城宮の正月行事に日月像などを表した幡(ばん)=旗=を立てたとの記録も残る。

中世になると「蒙古襲来絵詞」などの絵図に「赤地に金の丸」の軍扇が描かれる。

金色で表していた太陽を、いつごろから赤く描き、背景が白地になったのか、はっきりしない。古い日の丸では、武田家の家宝で「11世紀、後冷泉天皇から賜った」との伝承を持つ旗が山梨県に伝わる。ただし「室町以降のものでは」との見方もあるという。

錦旗の代用品?

一方、賀名生には他にも南朝関係の品として「白地に赤」「黒地に赤」の日の丸が伝わるとされる。太平記には後醍醐天皇の軍勢が「日月像を金糸銀糸で刺しゅうした錦の御旗を立てた」などと記してあり、日の丸は錦旗の代用品だったとする説も出ている。

堀家にも旗のほかに笛や駅鈴など南朝ゆかりとされる品が伝わり、資料館に展示している。堀家住宅自体、国重要文化財に指定されている。

母屋は16年前に解体修理され、室町末期の建物と判明。現在は茅葺(かやぶ)き屋根の平屋だが、当初は板葺きか杉皮葺きの2階建てだったとみられる。小笠原さんは「当時では珍しい立派な建物。皇居があった時期の姿を継承した可能性もあります」と話す。

堀家住宅には現在、子孫の堀元夫さん(74)、昭子さん(74)夫妻が住む。商社マンだった元夫さんの定年を機に10年ほど前、住み慣れた東京から祖先の地に戻った。

「屋敷の手入れが大変」と昭子さん。山々に囲まれた暮らしを「美しいと思うときもあれば、涙が出るほど寂しいときもあります」と語る。

文 編集委員 竹内義治

写真 大岡敦

より道 重臣の北畠親房を毎年顕彰

険しい山々が連なる吉野は古来、神仏の居処とされ、修験の場だった。動乱期には大海人皇子(後の天武天皇)や源義経ら人々の逃避先にもなってきた。

「吉野の郷士は強兵として知られ、修験者のネットワークを生かせば情報収集も有利だった」と奈良市埋蔵文化財調査センターの森下恵介所長は説明する。

賀名生周辺には堀家住宅のほか、後村上天皇の行宮「黒木御所」跡とされる崇福寺皇居跡など、南朝関連の旧跡・遺跡が残る。資料館近くの華(け)蔵院(ぞういん)という寺跡には南朝を支えた公卿、北畠親房(ちかふさ)の墓と伝えられる直径約7メートルの塚がある。

塚の前では親房の命日に合わせて毎年4月上旬、地元住民が「華蔵院祭」を催して顕彰を続けている。今年も6日、雨の降る中、約30人が集まって親房の霊を慰めた。主催する賀名生自治会の東澄夫会長は「地域住民にもっと地元の歴史を知ってもらい、次の世代に引き継ぎたい」と話す。

現在の賀名生は、奈良県でも有数の梅林として知られる。開花に合わせて2~3月、堀家住宅は見学を受け入れている。往復はがきで事前の申し込みが必要。

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

関連キーワード

セレクション

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン