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鞠に託した国造りの志 談山神社(時の回廊)

十三重塔 奈良県桜井市

新緑に包まれた多武峰(とうのみね)にある談山(たんざん)神社(奈良県桜井市)は、現存する世界唯一の木造十三重塔で知られる。塔が見下ろす境内で4月下旬、恒例の「けまり祭」が開かれた。

談山神社に現存する世界唯一の木造十三重塔(奈良県桜井市)

烏帽子に色鮮やかな装束姿で鞠(まり)を追うのは蹴鞠(しゅうきく)保存会(京都市)の会員たち。あいにくの空模様だったが、大きなテントの下、輪になって「あり」「やあ」「おう」と独特の掛け声とともに鹿皮の白い鞠を蹴りあった。

「日本書紀」に故事

サッカーのリフティングを思わせる巧みな足技に見物客から歓声が上がる。会員の1人、上田恒弘さんは言う。「ここは鞠を蹴る者にとって特別な場所です」。蹴鞠(けまり)は藤原氏の始祖、藤原鎌足を通して十三重塔と結びつくからだ。

644年、蘇我氏打倒を期す鎌足は、法興寺(同県明日香村)で蹴鞠会(けまりえ)を催した中大兄皇子に近づいた。鞠を蹴った拍子に脱げた皇子のくつを手に取り、ひざまずいてささげる鎌足。「日本書紀」などに記された有名な故事だ。

この出会いが翌年の乙巳(いっし)の変(大化の改新)につながる。2人が蘇我入鹿暗殺や将来の国家像を語り合った場が、飛鳥の裏山にあたる多武峰だった。都から近からず遠からず山深い。蘇我氏の目を避けるのに最適だったのだろう。

境内で行われた恒例の「けまり祭」(奈良県桜井市)

鎌足の死後、唐から帰国した長男の僧、定恵は678年、この地に父の遺骨の一部を改葬し、墓所として十三重塔を建立した。談山神社の始まりだ。その名は皇子と鎌足との密談の場に由来する。

十三重塔をじっくり見てみよう。13の檜皮(ひわだ)葺(ぶ)きの屋根の先がゆるやかな曲線を描く。2層目より上は屋根と軒だけを重ねる。高さ約17メートル。真下から見上げれば、屋根の先が一直線に連なるのが分かる。2007年、檜皮を葺き替えたが「先端の線をぴたりとそろえるのに苦労しました」と、奈良県文化財保存事務所の吉田恭純さんは振り返る。

「五行思想」由来か

なぜ「十三」なのか。各地の五重塔とは何が違うのか。諸説あるが「古代中国の五行思想に由来するのでは」と長岡千尋宮司は唱える。万物は木火土金水の五元素から成るとの思想で、骨に通じ墓所にふさわしい白色を意味する「金」は、数字で表すと4と9にあたる。足すと13。この考えでは十三重塔は、5層の屋根で仏教の世界観を表す五重塔とは根本から異なる。

定恵は唐の十三重塔を模したとされる。かつては大陸や国内に他にも多くの十三重塔があったが、現存するのはここだけだ。戦乱や火災、地震による倒壊を経て、現在の塔は1532年に建立したもの。「構造的に難があり、火災や地震に弱い。現存するのは奇跡的」と長岡宮司は言う。

「蹴鞠は明治天皇の意向で、全国的に奨励されました。大化の改新が蹴鞠から始まったことに深い関心をお持ちだったのでは」(長岡宮司)。同神社でけまり祭が始まったのは大正期。国の形を決定付けた出会いを、2人に縁深いこの地で再現し、90年の歳月を経た。幾重にも続いてきた長い歴史が、整然と連なる13の屋根に重なって見えた。

文 大阪・文化担当 田村広済

写真 玉井良幸

より道 渡る「みそぎ」屋形橋


 桜井駅方面から街道を南へ下ると、吉野方面との分岐点に現れるのが屋形橋。多武峰のふもとを流れる小川に架かる。名前の通り、屋形船のような屋根を持ち、長さは10メートル余り。談山神社への参道は事実上、ここから始まる。
 現在の橋は1979年の完成だが、橋自体は神社同様、古くから存在した。神社への唯一の入り口だった時期もあるという。
 吉野を訪れた江戸期の国文学者、本居宣長も立ち寄り、「菅笠日記(すががさのにっき)」に「うるはしき橋あるを渡り」と書き残している。俳人の松尾芭蕉もこの橋を渡ったと伝わる。
 「この橋は神社の結界へ入るための入り口です。橋を渡ることは神社を訪れるためのみそぎを意味します」と談山神社の長岡千尋宮司は話す。
 歩行者専用で、車は並行するコンクリート製の橋を渡る。バスや車で参詣する場合は素通りしがちだが、途中下車して立ち寄ってみたい。境内と同様、春の桜と秋の紅葉が楽しめる。重厚な山門や石灯籠、石塔なども忘れられたように静かにたたずみ、非日常的な雰囲気に包まれている。
参道は事実上この橋から始まる(奈良県桜井市)
 JR・近鉄桜井駅から奈良交通バスに乗り談山神社で下車、徒歩5分。屋形橋へは多武峰で下車。

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