(2012年9月27日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
「iPhone5」の地図アプリでアップルが演じた失態は古いジョークを連想させる。ヨーロッパの人にとっての地獄とは「料理人は英国人、恋人はスイス人、時間の管理はイタリア人」というジョークだ。
■主要機能を社内で開発する方向へ
好むと好まないとに関わらず、新しいモバイル技術が行き着く場所もこんな感じだ。スマホ版の地獄は「閲覧ソフトとアプリ配信サイトはブラックベリー端末、交流サイトの運営はニューズ・コーポレーション、ハードはキンドル初号機」だ。「地図アプリはアップルの新型iPhone」もこの地獄に加えてよい。同社の地図アプリは主要な建物や公共施設の位置を間違えてばかり。すぐに改善はされるだろうが。
モバイルへのシフトに伴い、技術企業が得意分野から逸脱するのには正当な理由がある。スマホのユーザーは端末の主要機能が相互に連動し使いやすくなることを求めている。主要機能をすべて社内で開発すれば、アップルのような技術企業は製品の全般的な操作性を高めることができる。自動車メーカーと似たような感じだ。自動車は座席、ヘッドライト、ブレーキはすべて標準装備であり、オプションではない。
そこに商業的な野望やライバルへの嫉妬も作用する。iPhone5に「グーグル・マップ」や「ユーチューブ」を標準搭載しないことで、アップルは他社の収益の一部を奪うことができる。さらに重要なのはユーザーの個人情報へのアクセスを確保できる点だ。例えばユーザーがデジタル地図で周辺のサービスを検索した場合、ユーザーがいる場所や検索意図などを知ることができる。
■コンテンツやサービスが競争の焦点に
スマホやタブレット(多機能携帯端末)の世界では、コンテンツとサービスに競争の焦点が移りつつある。韓国サムスン電子のタブレットの角の丸みがアップル製品を違法にまねたのかどうかは司法が判断するだろうが、大半の消費者にとっては無意味な議論だ。ハードの見た目で製品を選ぶことは少なくなっているからだ。
この状況がもたらす影響を列挙しよう。