エジプト大統領、全閣僚更迭を表明 デモは全土に拡大
【カイロ=花房良祐】エジプトのムバラク大統領の退陣を求めて28日に始まったデモは同国全土に広がり、数万人規模に膨らんだ。治安部隊との衝突で少なくとも18人が死亡、千人以上が負傷した。ムバラク大統領は29日未明、テレビを通じて演説し、全閣僚を更迭し同日中に新内閣を発足させると発表。政権維持に強い意欲を示した。エジプト情勢の緊迫を受け、米株式が急落するなど混乱は世界の市場にも及んできた。
ムバラク大統領が公開の場に現れたのは25日に反政府デモが発生してから初めて。大統領は「現内閣に総辞職を要請した」と述べ、全閣僚を更迭する考えを明らかにした。「新内閣には課題に対処できるよう明確な目標を示す。経済や政治の改革を続ける」と述べ、民主化や国民生活の向上に向けた取り組みを実施し、自身は職にとどまる考えを示した。
一方で「問題は暴力ではなく対話だけを通じて解決できる」と強調。「若者は公益のことを考えるべきだ」と自制を促した。さらに大統領は「エジプトの安定を維持するためにすべての手段をとる」と警告し、過激なデモを抑え込む方針を明らかにした。
エジプトの大統領退陣を求める大規模デモは28日、カイロの与党・国民民主党(NDP)本部や警察署などが焼き打ちにあう暴動に発展。長期独裁政権の象徴的な存在であるNDP本部は炎に包まれた。政府は同日夜、治安当局だけではデモを抑え込めないと判断、カイロやスエズなど各都市に軍隊を投入した。カイロ中心部には装甲車が展開している。
ロイター通信などによると、28日のデモではカイロとスエズだけで死者が18人、負傷者は約1100人に上る。
カイロやアレクサンドリアなどでは午後6時以降の外出禁止令が出されたが、群衆は無視して抗議を続けている。大統領の演説後もデモ隊は大統領の辞任を求めてカイロ中心部に集まっており、内閣総辞職で事態が収束に向かうかは不透明だ。
AP通信によると、民主化を訴えて帰国したエルバラダイ国際原子力機関(IAEA)前事務局長は28日、自宅で軟禁状態に置かれた。エジプトでは29日未明もインターネットや携帯電話の音声通話が通じない状況が続いており、デモ隊が連絡を取り合うのを当局が阻止している。