中国版GPS、衛星10基で本格稼働 民間に開放
自前で位置情報、軍の弱点補う狙い
【北京=森安健】中国政府は27日、中国版の全地球測位システム(GPS)を同日から民間向けに開放すると発表した。まず衛星10基を使い、中国とその周辺地域に限って位置情報を提供する。自動車のカーナビゲーションシステムなどの利用を見込む。自前の測位システムの本格稼働は、中国軍の弱点だったGPSでの米国依存を解消する狙いがある。
1994年 | 北斗向けの衛星の製造に着手 |
2000年 | 実験衛星2基を打ち上げ |
03年 | 実験衛星をさらに1基打ち上げ、測位システムのデモ運用を開始 |
07年 | 「北斗」衛星の1号機打ち上げ |
10年 | 「北斗」衛星を5基打ち上げ |
11年 | 10基目の衛星が軌道に乗り、中国と周辺地域限定で測位システムが稼働。民間利用にも開放 |
中国は2000年から産官学軍が連携し、独自の衛星測位システムの開発に着手した。今月に入って10基目の衛星が軌道に乗り、システムを動かす体制が整った。来年にはさらに6基を打ち上げ、アジア太平洋全域でサービスを提供する計画だ。16基の体制になれば、測位の精度は誤差25メートルから10メートルに高まるという。システムが完成する20年には35基の体制で全世界をカバーする方針だ。
中国政府は27日、「北斗」と呼ぶ自前のGPSの信号に関する仕様を英語と中国語でウェブサイトに公開した。記者会見した中国衛星測位システム管理弁公室の冉承其主任は「仕様に関する情報は無料。内外の企業にアプリケーションの開発を促したい」と語った。
GPSは複数の衛星が不特定多数に信号を発信し、地上の受信機で自分の位置や進路を確認する仕組み。カーナビのほか航空機や船舶の位置確認、災害時の状況把握などに使われる。携帯電話の情報サービスやゲームなどにも応用できる。
中国では兵器の命中精度の向上など、軍事面でも重要な役割を持つとみられる。中国軍はこれまで米国のGPSに頼るしかなく、米側からアクセスを遮断されれば、軍の運用に支障が出る弱点があった。
日本の防衛省の関係者は「30基体制が実現すれば、中国周辺を航行するすべての船舶の状況を正確に把握できるようになり、米海軍の接近を阻止する戦略の一環となる」と分析する。
性能面の課題を挙げる声もある。米国の最新の衛星と比べ性能が劣る中国の衛星は精度を高めるため、一般的に打ち上げ高度が低い。その分、消耗が早く、頻繁に打ち上げて更新しなければならない欠点がある。
無料で仕様を開放する方針に関しては「企業にとっては使いやすいが、中国側に活動状況をすべて把握されることを意味する」(防衛省関係者)との見方も出ている。
衛星測位システムの国際競争は激しい。ロシアが「グロナス」、欧州がより高い精度をめざして「ガリレオ」をそれぞれ開発中。日本は10年に初の測位衛星「みちびき」を1基打ち上げた。
中国は宇宙ステーションの建設に向け実験船を打ち上げるなど宇宙開発を加速している。技術面を担う国有・中国航天科技集団の趙小津・宇航部長によると、中国の衛星の打ち上げ件数は今年19件。18件の米国を抜き、ロシアに次ぐ単独2位になるという。