タイ首相、原発導入急がず 日系企業の進出優遇
【バンコク=高橋徹】タイのアピシット首相は24日、バンコクの国会内で日本経済新聞など日本メディアと会見した。自国の原子力発電所建設計画については日本の福島第1原発の事故を受けて「選択肢として(原発導入を前提としない)代替案の検討を指示した」と述べ、見直しも視野に決断を急がない考えを表明した。東日本大震災で経営への打撃が懸念される日系企業への支援策を準備する考えも示した。

タイ政府は昨年、2020年以降に原発5基(計500万キロワット)を建設することを盛り込んだ電源開発計画を作成し、その是非を判断する段階を迎えている。首相は「日本で起きたことを考慮し、原発を推進するかどうかを今後1~2年かけて判断する」と語った。
ただ、福島第1原発が約40年前に建設されたことから「世界で現在建設が検討されている原発とは別の世代の技術」との認識も示した。日本企業もタイでの原発受注を目指していた。
日本からの輸入食品の安全性への懸念については「今日時点で放射線を検出したとの報告はない」としたうえで、引き続き検査態勢を強化する方針を明らかにした。
日本は、昨年のタイ向け直接投資(2792億バーツ=約7600億円、認可ベース)のうち、4割弱を占める。首相は「日本の被害がまだ明らかではないが、最大の投資家である日系企業が今後もタイで活動し続けられるよう助けたい」と話した。
すでに工業省などは、震災をきっかけにリスク分散のためタイへの生産拠点の移転を希望する企業向けの特例的な投資優遇を検討している。首相の発言はそうした動きを念頭に置いたものとみられる。
今年末で任期切れを迎える同国下院について、首相は5月第1週に解散する方針を表明済み。6月末~7月初めに想定される次期総選挙に関し、首相は「人々は物価上昇に苦しんでおり、国民の最大の関心は経済にある」と、インフレ抑制など経済政策が最大の争点になるとの認識を示した。
政敵であり、汚職で有罪判決を受けて海外逃亡中のタクシン元首相は、比較第1党の野党・タイ貢献党が政権を奪回すれば、帰国して経済立て直しに取り組むと発言している。首相は「国を前進させるか(政情混乱などで)同じ場所にとどまるのか、国民が選択することになる」と述べた。