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ドイツ流「最後のお願い」 総選挙直前、早朝から熱気

ドイツ連邦議会(下院)選挙は22日に投票日を迎える。与野党の接戦が伝えられるなかで主要政党は選挙モード全開のはずだが、街頭演説の姿はほとんど見あたらず、どこも町は静まりかえっている。それもそのはず。候補者や党員らが早朝から支持者を回って政権公約をきちんと説明し、納得ずくのうえで票を投じてもらうのがドイツ流。ドイツ各地で繰り広げられる「最後のお願い」を追った。

まだ真っ暗の朝5時45分。「リンゴはいりませんか」。「電車のなかで食べてください」。独中部にある小都市ベンスハイムの駅前では、保守系与党のキリスト教民主同盟(CDU)の党員が通勤客に小さな包みを配っていた。

中に入っているのはリンゴと選挙公約が記されたチラシ、それに地元選出のマイスター連邦議会議員の活動報告だ。野党が提唱する所得増税には絶対反対の立場。空前の雇用を生み出した好景気に水を差すと批判する。「リンゴをかじりながら公約をきちんと理解してくれれば・・・」と高校を卒業したばかりの若い党員は期待する。

マイスター氏は早朝の「リンゴ配り」に顔を見せた後、支持者回りに精を出す。選挙区内の各地に設けられた仮設の小さな集会所を訪れて有権者と向き合う。中央政界では院内会派の副代表として危機対策や財政政策を担うが、地元ではやはり身近な話題がテーマ。「道路を2車線から4車線に広げて欲しい」「線路に防音壁をつけてほしい」。そんな地元の要望を聞く姿は、日本の選挙活動と変わらない。

本領発揮は、有権者が仕事を終えた夕方以降の時間帯だ。17日は午後8時から地元紙が主催する討論会に出席した。町中にある小さなホールに集まったのは、ライバルの野党候補も含めて5人の候補者。「子育て支援をどこまで拡充すべきか」「その費用を増税で賄うべきか」。約40人の聴衆を前に、家族と子育てについて2時間あまり議論を戦わせた。

 ドイツの選挙制度は、比例代表制度に小選挙区の要素を加えたものだが、今回の総選挙から比例代表制度をさらに重視するように改められた。「個人ではなく、政党を選ぶことが最重要」(マンハイム大学のデブス教授)というドイツの選挙戦では、有権者は候補者の個人的な人気よりも、政党の公約を注視するとされる。

それゆえ主要政党は選挙期間中だけドイツ各地に仮設スタンドを設けて有権者に自らが掲げる公約の周知徹底を図る。最大野党・社会民主党(SPD)のガブリエル党首が17日に訪れたのも、そうしたスタンドのひとつ。わずか数十人の聴衆だったが、がっかりもせずにメルケル政権で広がった所得格差を是正する必要があると訴えた。じっくりと有権者と話し合って政策面での理解を深めてもらう伝統的な選挙戦を地道に展開している。

ドイツでは家族や友人、職場の同僚とのあいだで選挙戦が頻繁に話題になる。どこの政党を支持するのか、なぜそうしたのかをお互いに明らかにして議論する。多くの官僚や企業経営者が特定の政党に所属し、階級社会の名残から家族が代々同じ政党を支持する政治的な土壌がある。そんなドイツだからこそ朝から晩まで支持者と議論し、説得することが候補者に求められている。

どの政党にとっても課題は支持者の若返り。それゆえ次世代の有権者に語りかけるのは忘れない。「ソマリア再建はどうするの」。18日夜、ケルン郊外のミニ集会でSPDのミュッツェニヒ議員に質問を浴びせたのは10歳の男の子だった。

(ベルリン支局=赤川省吾)

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