中国サイバー攻撃、米基幹産業の機密狙う 警告無視
米政府が5人訴追
【ワシントン=川合智之】米政府が5人を刑事訴追した中国人民解放軍のサイバー部隊「61398部隊」によるサイバー攻撃は、米基幹産業の機密情報を狙ったものだった。盗んだ情報は中国の国有企業などに流れ、競争力の底上げに役だったもようだ。米国は攻撃の中止を再三、中国に警告してきたが無視されてきた。中国政府は関与を強く否定している。
「『もうたくさんだ』と言わなければいけない」。ホルダー米司法長官は19日の記者会見でいらだちを隠さなかった。会見では起訴した5人の顔写真と名前を載せた米連邦捜査局(FBI)の指名手配のポスターを掲げ、厳しく責任追及する姿勢を示した。
5人は中国人民解放軍総参謀部第3部「61398部隊」に所属。米セキュリティー会社のマンディアント社が昨年の報告書で、温家宝元首相一族の巨額蓄財疑惑を報じた米紙ニューヨーク・タイムズなどを狙ったサイバー攻撃は同部隊によるものと特定。今回は司法当局が初めて認めた。
米司法省によると、2006~14年にかけて王東、孫凱良、文新宇の各被告がハッカー攻撃による侵入を企て、黄鎮宇、顧春暉の両被告が共謀して侵入を助けた。産業スパイや商業機密窃盗など31件の罪に問われた。
スパイ対象になったのは東芝傘下の米原子力大手ウエスチングハウス(WH)、鉄鋼大手USスチール、太陽光パネル製造の独ソーラーワールドの米国子会社、非鉄大手アルコアなど企業5社と労働組合。
WHでは10年に原子炉の配管や支持構造物、建屋内の配管の経路などの設計情報を盗まれた。当時、WHは4基の「AP1000」型原子炉を中国で建設中。中国は同型原子炉の国産技術化を進めており、途上国への原発輸出を狙っている。
ソーラーワールドは12年、生産ラインやコストなどの経営情報を含む数千種類のファイルを盗まれた。同じ時期に中国メーカーによる太陽光パネルの米市場でのダンピング(不当廉売)が判明、米企業は打撃を受けた。
「研究開発や新製品開発のコストは競争力を左右する。サイバー攻撃で得た情報の価値は重要だ」と米政府高官はいう。米企業へのサイバー攻撃で得た情報を関連する中国企業に流し、競争力を高めた可能性がある。
オバマ米大統領は昨年6月の米中首脳会談などを通じ、中国側にサイバー攻撃への懸念を伝えてきた。米通商代表部(USTR)が4月公表した知的財産権保護に関する年次報告書でも、中国政府にサイバー攻撃などによる情報窃盗を取り締まるよう強く求めていた。
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