米盗聴、世界に不信の渦 ドイツは追及強める
米中央情報局(CIA)元職員のスノーデン容疑者の暴露に端を発した盗聴問題が欧州やアジア諸国で対米不信の渦を広げている。ドイツでは18日に議会が集中討議を予定。独政府による元職員への接触も視野に米政府への追及を強める見通しだ。米政府が安保・通商面での新たな重要拠点と位置づけるアジアでは主導力が低下しかねない状況に陥っている。

【ベルリン=赤川省吾】9月の連邦議会(下院)選挙後の連立協議に手間取り、まだ新政権が発足していないドイツ。だが10月にメルケル首相の携帯電話への盗聴疑惑が発覚すると、野党議員を中心に反発が強まり議会での集中討議が決まった。
各党は今月18日夕に1時間半にわたって真相究明の進め方を協議する予定。事実確認のため、スノーデン元職員に独政府が接触する構想が浮かぶ。軍縮活動を党の出発点とする緑の党は、核心に迫るには証人として元職員を独議会に呼ぶべきだと訴える。
同党のシュトレーベレ議員は10月末に滞在先のモスクワで元職員と会い、本人の意思を確認。同議員は記者団に「ドイツが決断さえすれば彼は訪独する」と断言した。
だが元職員の議会招致で対米関係がさらに悪化するのは必至。しかもドイツが亡命を受け入れるかどうかの難しい政治判断も迫られる。

ドイツ国民の反応は割れる。公共放送ARDが今月上旬に公表した世論調査では元職員を英雄視する回答は6割に達したが、亡命を認めるべきだとの考えは46%にとどまった。
新政権樹立に向けて協議中の二大政党は元職員が訪独した場合、米政府の求めに応じて身柄を引き渡さざるを得ないとの立場。元職員に接触するとしても場所はモスクワになるとしている。欧州連合(EU)が元職員の受け入れに消極的で、これを意識しているフシもある。
ドイツで米国批判が強まったのは、首相の携帯まで盗聴されていた疑惑が明るみに出たことに加え、個人情報の保護に敏感な国柄がある。
冷戦終結後の欧州統合で対米外交の位置付けが著しく低下していることも見逃せない。日本と異なり、ドイツにとり米国は「重要なパートナーのひとつ」でしかなく、さほど顔色をうかがう必要がない。
とはいえ米独には太い人脈があり、多様な価値観も共有する。経済界はEUと米国間の自由貿易協定(FTA)の交渉継続を主張。メルケル首相も対米関係をことさら悪化させることは望んでおらず、過度な対米批判は控えている。ドイツも本音では落としどころを見つけたいようだが、火がなかなか消えずに困惑している。