[FT]試練のオバマ米大統領、イラン対話に3つの壁 - 日本経済新聞
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[FT]試練のオバマ米大統領、イラン対話に3つの壁

(2013年11月11日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

イランとの歴史的合意を慎重に模索してきたものの、欧米諸国(特にフランス)はおじけづいてしまった。それでも来週再び協議に臨む予定で、合意もまだ手の届くところにある。米国が合意を切望していることに疑いの余地はない。イランと合意に達すれば米オバマ政権は息を吹き返す可能性があり、2009年にノーベル平和賞を受賞したオバマ大統領はようやくそれにふさわしい働きをすることになる。

民主・共和両党にまたがる反対勢力

一方、オバマ大統領が他の手ごわいプレーヤーに簡単に出し抜かれてしまう可能性もある。外交問題の中でも、今回はとりわけ扱いの難しいケースだ。シリア危機をめぐるオバマ大統領の気まぐれな対応ぶりを見ても、最高の結果を望みつつ、最悪の結末も覚悟したほうがいい。それを一番よくわかっているのがフランスだ。

いかなる合意にも反対するという勢力はかなり強力だ。フランスからの疑念に加えて、オバマ大統領はまず米国の交渉姿勢が一本化されているとイランに納得させるという課題に向き合わなければならない。イラン政府にすれば、現時点では米国に少なくとも2つの姿勢があるように見えるだろう。

2カ月前、米議会はオバマ大統領によるシリア軍事攻撃の要請を拒絶する方針を明確にした。それが今では、イランへの新たな経済制裁の可決を遅らせようとするオバマ大統領の要請を拒絶したくてウズウズしている。戦争についても和平についても、オバマ大統領の議会への影響力は、フランス大統領よりも弱い。

オバマ大統領のおひざ元であるイリノイ州選出のマーク・カーク上院議員をはじめ、反対勢力は民主・共和両党にまたがっている。多数の上院議員は、イランがウラン濃縮計画の放棄に合意しないかぎり、同国への新たな制裁の実施を進めると宣言している。そんなことをすれば、イランとの合意は確実にご破算になるだろう。議会がそうした行動に出れば、オバマ大統領の命を受けたジョン・ケリー米国務長官がジュネーブで提案した交換条件が崩れる。ケリー氏の案は、凍結されていた海外資産の一部解除と引き換えに、一定期間ウラン濃縮を停止することしかイランに求めていなかった。議会の強硬派は、イランが完全に譲歩するまでは一切の経済的見返りを与えるべきではないと考えている。

どちらが本当の米国の立場なのだろうか。

かつて中東諸国は、米国政府内の2つの陣営の違いを「北風と太陽」のようなアプローチの違いにすぎず、根っこは同じだと考えていた。今では、そのような見方をする者はほとんどいない。

オバマ氏の発言には、北風のような怖さも太陽のような慈愛も感じられない。議会は過去4年にわたり、予算案に合意することもできなかったが、イランへの制裁強化に関しては、1日もあれば過半数の票を固めてしまうかもしれない。今懸念されるのは、議会が経済制裁をまとめてしまい、次のジュネーブ協議が始まる前にその息の根を止めてしまう事態だ。

イスラエルの抵抗

オバマ大統領の2つめの課題は、イスラエルのベンジャミン・ネタニヤフ首相の怒りを鎮めることだ。ネタニヤフ首相はケリー国務長官の提案を「イランにとって100年に1度のうまい話」と批判している。大統領1期目のオバマ氏とネタニヤフ首相の関係は、惨憺(さんたん)たるものだった。ネタニヤフ首相はあらゆる機会をとらえて、ホワイトハウスを侮辱した。オバマ氏もやがて同じような軽蔑(けいべつ)をもって相手に報いるようになった。昨年の大統領選で、ネタニヤフ首相が友人としておおっぴらに支援してきたミット・ロムニー氏にオバマ氏が勝利したことで、ネタニヤフ首相はしばらく沈黙してきた。

その両者の関係は、今再び冷え込んでいる。ネタニヤフ首相はイランのロウハニ新大統領を「羊の皮をかぶったオオカミ」と表現し、前任のアハマディネジャド氏よりなお悪い、という見方を明確にしている。この見方は完全に誤っている。しかし、議会でオバマ大統領と、米国有数のロビー団体で通常ネタニヤフ氏の意向に従って動くアメリカ・イスラエル公共問題委員会が主導権争いをすれば、有利なのは後者だろう。明らかな約束違反は、来週にも起こり得る。オバマ大統領が自らの目標を達成するためには、イスラエルの抵抗を中和する必要がある。

第3の課題は、イスラエルとの関係にとどまらず、中東地域で米国の同盟関係が急速に崩れていることだ。オバマ大統領は、イランを最初の合意寸前まで引き寄せることに強い決意を見せてきた。これは1979年に宗教指導者を中心とする革命勢力がイランを支配して以来、初の米・イラン協議である。米国とイランが長期間にわたって水面下での協議を進めてきたという報道を見ると、オバマ大統領には戦略を決めて実行に移す能力があることがわかる。ケリー国務長官の粘り強い協力もある。だが、その過程で米国は中東のほぼすべての同盟国への影響力を失いつつある。

今年、エジプトの軍事クーデターを受けて、オバマ大統領は18億ドルの軍事支援を凍結すると脅したが、軍事政権の指導者はそれを笑い飛ばした。結局、凍結された支援額はそれより少なかった。両国の間に生じた溝につけこもうとするサウジアラビアなど他国が、即座に120億ドルの拠出を決めた。

一方、サウジアラビアは、イランがまたしても米国主導の的外れな取り組みから利益を得ようとしていることに脅威を感じている。ジョージ・W・ブッシュ政権の時には、イラクが実質的に皿に盛られてイランに提供されたようなものだった。サウジアラビアにとって、今度はオバマ大統領がイランの支援するシリア政権の立場を強め、イラン政府の核開発計画を少なくとも一時的に保留しようとしているように見える。オバマ大統領は、サウジ政府の反感を抑える方法も模索しなければならないだろう。

交渉に踏みとどまるという選択

こうした状況の根底にある重要な事実は、オバマ大統領が交渉という選択肢にとどまろうとする優れた感覚を持っていることだ。イランと戦争をする、あるいは同国の核開発の野望を容認する、といった他の選択肢のほうがはるかに悲惨だ。世界のほとんどの国は、オバマ大統領があらゆる手段を駆使して、イランとの平和を実現する、またとない好機を生かしてほしいと期待している。だが、イスラエルと議会の支持を失うことを避けるためには、日ごろの枠を超えた戦い方が求められるだろう。フランスも、イランが得をすることがないという確証を得たいと考えている。

オバマ大統領は、おそらく世界で最も扱いにくい問題を解決するため、最大限の外交努力をしている。だが、それで十分かは疑問の残るところだ。

By Edward Luce

(c) The Financial Times Limited 2013. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.

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