台湾、電力を大幅値上げ 工業用で最大4割
【台北=山下和成】台湾は10日、電力の大幅値上げに着手した。時期を3回に分けて実施し、最終的に工業用が約3~4割、家庭用も約1~2割上がる。直接の理由は原油高だが、年初の総統選挙対策などで値上げを先送りしていた経緯もあり、輸出競争力を維持するための料金抑制策が限界に達した格好。ただ急激な値上げはIT(情報技術)など主力産業の収益圧迫や海外への生産移転を誘う可能性もある。
電力値上げは2008年10月以来。公営で独占企業の台湾電力が実施する。例えば工業用1キロワット時あたり単価は大型工場(契約電力100キロワット超)で37.3%の値上げとなり、小型工場は29.5%上がる。
馬英九総統は当初、5月中旬に一括値上げする意向だったが、企業や住民から不満が続出し、実施時期を分散した。今回と12月に値上げ幅の4割分ずつ上げ、残りの2割分は今後時期を詰める。大型工場の場合、10日の値上げ幅は約15%。電力使用量が膨らむ夏の急激な値上げを避けた。
とはいえ批判は収まらない。世界最大の半導体受託製造会社、台湾積体電路製造(TSMC)の何麗梅・最高財務責任者(CFO)は一括値上げを想定し「4~6月期の営業利益率を0.5%押し下げる」と表明。鉄鋼メーカーなどが加盟する台湾鋼鉄工業同業公会の林明儒理事長(豊興鋼鉄董事長)も「値上げ幅が大きすぎる。電炉メーカーへの影響は甚大だ」と訴えた。
足元の国際原油先物価格は、最初に値上げを表明した4月より約2割下がった。だが値上げ方針を変えなかったのは、価格転嫁の遅れから台湾電力の経営が悪化したためだ。08~11年度の4年間の累積赤字は1179億台湾ドル(約3180億円)に達した。
台湾電力は台北近郊に新たな原子力発電所を建設していた。だが昨年3月の福島第1原子力発電所事故を受けて安全に懸念が高まり、稼働のメドは立たない。代替の火力発電などが発電コストを押し上げている。
台湾当局は主要産業の国際競争力を維持するため、政策的に電気料金を安く抑えてきた。馬総統は08年の原油高騰時も、支持率低下を心配し値上げを小幅にとどめた。しかし今回は、総統再選後に大幅値上げをしたため反発は強い。
一方、総統府関係者は「企業や住民の省エネ意識が低い」と指摘する。台湾電力を管轄する経済部(経済産業省)の施顔祥部長(経産相)は「これ以上産業界は安い燃料や電力に頼るべきではない」と突き放す。
ただIT産業などで韓国より安価だった工業用電力は、完全値上げ後に2割強割高となる。主力の半導体や液晶パネルは電力を大量消費するため負担が重い。韓国との競合業種はシェア低下につながる懸念も浮かぶ。
値上げにより、電力料金はマレーシアやタイよりも高くなる。すでに生産拠点をコストの安い中国大陸などに移す動きが出ているが、海外への生産移転により産業空洞化が一段と加速することも予想される。
民間消費など内需への影響も大きい。台湾の行政院(内閣)は5月、電力の値上げが「12年の域内総生産(GDP)成長率を0.24%押し下げる」との見通しを示した。