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iPad訴訟和解 アップル・中国側、実利重視の幕

米アップルが多機能携帯端末(タブレット)「iPad(アイパッド)」の商標権を巡り中国で争っていた訴訟は、アップルが、同社を訴えていた中国企業への6000万ドル(約48億円)の支払いを受け入れ、和解に達した。2011年から続いた係争の決着の構図には、双方が実利を重視した跡がうかがえる。

アップル、新製品や生産への影響考慮

【シリコンバレー=岡田信行】全社売上高の2割を占める中国での訴訟が響き、新型iPadを発売できずにいたアップル。目の前の商機と譲れない一線の間で揺れながら、名よりも実を取った。

「国内外の注目を集めていた訴訟が決着した」。2日、中国・広東省の高級人民法院(高裁)はサイトでこう伝えた。

裁判はアップルがiPadの商標権を巡って、中国のIT(情報技術)機器メーカー、唯冠科技深セン(広東省)と争ったもの。アップルが唯冠の台湾グループ会社から商標権を買い取ったと主張したが唯冠側は、商標権を保有していたのは中国の唯冠でアップルとの契約は無効だと訴えた。11年に深セン市の中級人民法院(地裁)が唯冠の訴えを認める判決を下し、アップルが上訴していた。

和解の背景には、3つの要素が考えられる。

1つは新型iPadの中国発売だ。和解で障害物を取り除き、増収を狙うとともに、レノボ(中国)やサムスン電子(韓国)など競合他社の追撃をかわす考えだ。

第2は生産への影響だ。今回の訴訟で敗訴が確定すれば、アップルの中国販売だけでなく、生産にも響く可能性があった。中国の協力工場に生産を委託するアップルにとって、中国での生産が止まれば、世界戦略に響きかねなかった。

第3は他の知的財産権を巡る紛争への影響だ。「『iPad』ブランドを育てたのはアップル。毅然と対応すべきだ」。同社株主にはこんな声が根強い。ブランド力で製品を販売し、アプリケーションソフト音楽配信などの仕組みと組みあわせて顧客を囲い込むのがアップルの戦略で、デザインや機能、製品名などはブランドの源泉でもある。安易な妥協は許されなかった。

iPad商標権訴訟の経緯
2000~
01年
唯冠とグループ会社が中国など世界各地で商標登録
09年唯冠の台湾グループ会社がアップル側への商標権譲渡合意
10年アップルが中国でiPad発売、唯冠が商標権侵害主張
11年深セン市の地裁が唯冠の主張を認める判決
12年
2月
アップルの上訴で広東省の高裁の審理開始
7月広東省の高裁が和解合意を発表

米中メディアでは、アップルが1600万ドル(約13億円)を支払う用意があると報じられていた。和解金額の約48億円は、1~3月期に純利益116億ドル(約9240億円)を稼いだアップルにとって、機会損失を早期に食い止めるうえで決して痛手ではなかっただろうが、今後の同様のトラブルに備えられるかどうかが問われている。

中国側、雇用や生産地への打撃回避

【広州=桑原健】決着の舞台裏には、中国政府の意向や債権者との関係も働いていたとみられる。アップル製品の大半はEMS(電子機器の受託製造サービス)世界最大手の台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業が中国大陸で生産。工場は政府が経済振興を急ぐ内陸各地に広がる。アップルが中国でのiPadなどの生産打ち切りを決めれば、中国大陸全体で100万人という鴻海の雇用や各地の経済に打撃を与えるのは確実だったからだ。

中国政府は今回の訴訟を重視。アップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)が解決策を探り3月に訪中したときには、次期首相の最有力候補の李克強副首相が会談。唯冠科技深センの弁護士は政府の意向が和解に影響したかどうかについて「微妙な問題で回答できない」と語り、実際に圧力があったことをにおわせた。

唯冠側は当初、4億ドルとも100億元(約1250億円)ともいわれる賠償金を要求したと報じられた。それが6千万ドルで和解に応じたことについて弁護士は「債権者への対応を急ぐ事情があったため」と説明する。液晶のモニターや部材を生産する同社は販売不振で実質的な破綻状態。債権者の台湾の保険会社は唯冠の破産を申し立てており、唯冠は債務返済のための資金確保を急ぐ必要があった。

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