ニュースな技術

フォローする

Myニュース

有料会員の方のみご利用になれます。
気になる連載・コラムをフォローすれば、
「Myニュース」でまとめよみができます。

社会のジレンマを量子力学で解消? 進む「量子ゲーム理論」研究
日経サイエンス

2013/1/25 7:00
共有
保存
印刷
その他

 社会は逆説に満ちている。選挙結果は有権者の選択以上に制度設計に左右され、個々の利益を追求した結果しばしば全員が損をする。経済学者や数学者らは、こうした「どん詰まり」の状況が避けられないことを証明している。だが20世紀に生まれた物理学、量子力学が、そんな窮地から救い出してくれるかもしれない。

量子力学が語る「シュレーディンガーの猫」が囚人を解放する。(イラストは斉藤重之氏)
画像の拡大

量子力学が語る「シュレーディンガーの猫」が囚人を解放する。(イラストは斉藤重之氏)

 例えば「囚人のジレンマ」と呼ばれる逆説的な状況を考えよう。2人の容疑者が捕まり、尋問を受けている。ともに黙秘すれば証拠不十分で釈放され、ともに自白すれば収監される。だが1人が自白してもう1人が黙秘すると、自白した方は釈放され、黙秘した方はより重い刑を受ける。相手がどう出ても自白した方が有利になるので、結局2人とも自白することになる。人が合理的に行動する限り、「両方が黙秘する」という双方にとって望ましい結果は得られない。

 ところが実際の人間は、必ずしも合理的な行動を取らない。心理学の実験によれば、むしろ非合理的な協調行動を取る確率が高い。さらに奇妙なことに、こうした人間の不思議な意思決定は、量子力学の枠組みを使うとうまく説明できる。

 量子力学においては「自白する」と「黙秘する」だけでなく、「自白と黙秘をある確率で混ぜ合わせる」、「2人の選択肢を連動させる」といった新たな選択や条件付けが可能になる。ドイツのポツダム大学のJ.アイザート博士(現ベルリン自由大学)らは、これによってジレンマが解消され、双方ともにより有利な結果が得られることを示した。

 量子力学はこれまでも、それまでになかった計算操作を行う量子コンピューターや、絶対破れない量子暗号などの新技術を生み出してきた。だが、これらの技術と人間の意思決定には、決定的に違う点がある。量子技術は光子や電子などミクロな物体を用いており、量子的な現象がはっきりと起きる。だが人間の頭脳はマクロな物体で、量子力学的な現象が起きるとは考えにくい。ならば実験の結果が量子力学の式でうまく説明できるのは、単なる偶然なのだろうか。

 即断するのは早計だ。量子力学は、あるものを測定したときに何がどれくらいの確率で見えるかを語る一種の確率論だ。しかもその確率は、測定する人がどんな情報を持っているかによって変わる。一方、ジレンマの本質は「相手の選択がわからないまま自分の選択を決める」という点にあり、もし情報が何らかの形で得られれば、選択は変化する。

 情報の獲得によって確率的な予測が変化する──そんな確率を記述する「主観的な確率論」が、量子力学現象や人間の意思決定の共通の基盤となっている可能性があると、研究者らはみている。現代物理学と、人間の意思を語る枠組みには、隠れた共通項があるのかもしれない。

(詳細は25日発売の日経サイエンス3月号に掲載)


人気記事をまとめてチェック

「テクノロジー」の週刊メールマガジン無料配信中
「テクノロジー」のツイッターアカウントを開設しました。

ニュースな技術をMyニュースでまとめ読み
フォローする

Myニュース

有料会員の方のみご利用になれます。
気になる連載・コラムをフォローすれば、
「Myニュース」でまとめよみができます。

共有
保存
印刷
その他

電子版トップテクノロジートップ

関連キーワードで検索

量子力学

関連記事


【PR】

ニュースな技術 一覧

フォローする

Myニュース

有料会員の方のみご利用になれます。
気になる連載・コラムをフォローすれば、
「Myニュース」でまとめよみができます。

図4 薬師寺食堂の外観。発掘された遺構などをもとに図面を起こした。新築建物なので現行の建築基準法への適合が求められた(写真:日経アーキテクチュア)

幻の薬師寺食堂、3D設計で木造意匠を再現 [有料会員限定]

 奈良市にある薬師寺の境内に、僧侶の食事の場だった「食堂(じきどう)」が復元された。白鳳様式の木造寺院建築を鉄骨造で再現する際、設計や施工順序の検証などでBIM(ビルディング・インフォメーション・モデ…続き (9/20)

GPSデバイスを着用し、タッチラグビーの試合中の動きを計測した

日本代表のITラグビー、草の根に 慶應と横浜の挑戦

 「スポーツ×テクノロジー」「スポーツ×地方創生」「スポーツ×ツーリズム」…。近年、スポーツを切り口にした新ビジネス創出への取り組みが活発化している。そうしたなか、スポーツを上手に活用して子供たちに科…続き (9/15)

図4  矢板と堤防に挟まれた部分が十勝川千代田実験水路。水路幅30m、河床勾配500分の1、全長1310mの国内最大規模の河川実験施設だ(写真:北海道開発局帯広開発建設部)

「堤防決壊」の被害軽減へ 2大原因の謎に迫る [有料会員限定]

 長大な河川堤防は、土質を完全に把握できないことから形状で性能を規定している。しかし2000年代に入り、「破堤」による甚大な被害を防ぐため、堤防の“質”へも目を向けるようになった。今では浸透と越水の2…続き (9/4)

新着記事一覧

最近の記事

【PR】

TechIn ピックアップ

09月23日(土)

  • アップルが開発した「ニューラルエンジン」は、人工知能でiPhoneに革新をもたらす
  • 日産と三菱が「EV祭り」フランクフルトショー欠席の理由
  • ゲームの真髄は「身体性」―Niantic川島氏×スクウェア・エニックス三宅氏【対談】

日経産業新聞 ピックアップ2017年9月22日付

2017年9月22日付

・レシート、スマホで9割超読み取り、ISP
・薬副作用、iPSで予測 武田、早期に安全性見極め
・花火・海外挙式、VRで体感 近ツー、遠隔地に同時中継
・農作業の負担軽く、電動台車が自動追尾 中西金属工業
・抗がん剤を使いやすく、シンバイオ 米社技術導入…続き

[PR]

関連媒体サイト