/

感極まって涙が出るのはなぜ?

喜びや悲しみなど揺れ動く感情によって涙を流す動物は、人間だけだといわれる。しかしなぜ感極まると泣いてしまうのか。脳の機能を探る研究から、解明の手がかりが見つかり始めている。

Q 目にゴミが入ると涙が出るよね。

A まぶたや目頭の周辺には涙腺が密集している。個人差はあるけど、涙腺から1日に平均1~3ミリリットルの涙を出して目を潤している。目の表面の角膜が乾燥して傷まないよう保護するためだ。粒状の涙が外に出るのは目にゴミなどが入ったときで、洗い流す役割がある。

それとは別に、人間だけが流すというのが、感情的な涙だ。生理的に流れる涙と何か違いがあるのではないかと、1980年代、米セントポール・ラムゼイ・メディカルセンターのウィリアム・フレイ博士らが涙の成分を分析する研究を始め、注目されるようになったんだ。

Q どんな違いがあるのか分かったの?

A 涙を流した後、気持ちがスッキリするという数々の報告をもとに、フレイ博士は「ストレスの結果生じた化学物質が、涙の中に溶け出して流れ去るのではないか」という仮説を立てた。実験協力者に泣ける映画を見せ、涙をたくさん集める方法を工夫するなど苦労を重ね、面白い結果を出した。感情的な涙には、脳内で作られた化学成分が比較的高い濃度で含まれていたというんだ。

これを受けて多くの研究者が追試に乗り出した。しかし、同じような結果はなかなか出なかった。慶応義塾大学の坪田一男教授もかつて試みた1人で、やはり確認できなかったようだ。今ではフレイ博士の仮説は否定されている。

Q 感動して泣く理由はまだよく分かっていないんだね。

A 脳科学の研究から糸口が見え始めている。東邦大学の有田秀穂教授は、涙を誘う映画を見る実験で協力者の脳の活動状況を調べ、ある共通の傾向を見つけた。涙を流す前には必ず、額のほぼ中央部にあたる「正中前頭前野」と呼ぶ場所の活動が急激に高まったという。

この場所は、高度な精神活動をつかさどる前頭前野の中でも特に共感に関係している。涙腺を刺激するのは神経の興奮を抑える副交感神経で、日中働く交感神経とは違う。有田教授は「正中前頭前野は、起きながらにして副交感神経を働かせる引き金の役割を担っている」と考えている。その効果は一晩の睡眠に相当するほど大きいらしい。

喜びも悲しみも一種のストレスといえる。有田教授は「社会生活を送るなかで人間は、涙を流すというストレスの解消法を身につけたのではないか」と推測している。ストレス社会に生きる現代人は、理性で感情を抑え込むばかりではなく、心揺さぶられたときには大いに泣くことも必要かもしれない。

(編集委員 永田好生)

初割ですべての記事が読み放題
今なら2カ月無料!

セレクション

トレンドウオッチ

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン