独立行政法人・水産総合研究センター西海区水産研究所が長崎市内に完成させた高級魚のクロマグロ用陸上飼育水槽の本格稼働が始まった。マグロを成熟させて大量の受精卵を生産する技術を確立するのが目的だ。6月に飼育し始めた未成熟なマグロは2年後の産卵を見込む。天然のクロマグロの資源不足が懸念される中、世界で初めて稼働させた産卵施設に注目が集まっている。
「予想より早く人工配合飼料に切り替えられた。食べる量も増えており順調だ」。水産総合研究センター西海区水産研究所の虫明敬一・まぐろ増養殖研究センター長はこう話す。6月に2つの陸上水槽で飼育を始めたのは、鹿児島県の奄美大島沖の海上いけすで養殖していたクロマグロ114匹。いずれも生後2年で、平均の体長約1メートル、体重は15キログラムだ。長崎まで船で輸送した。8月上旬までに5匹減ったものの残りは元気に水槽内を泳いでいる。搬入当初は落ち着かず、水槽壁に激突するマグロもいたが、いまは上手によけながらゆったりと泳ぐ。当初は食べやすいサバの切り身など生のエサを使っていたが、7月半ばから栄養価を一定に保てる人工配合飼料に切り替えた。
世界初のクロマグロ用水槽は数多くの工夫を施している。2つある水槽はいずれも直径20メートル、深さ6メートルの円柱形のコンクリート製で、1880トンの海水が入る。水温や日照時間を制御でき、成熟や産卵に適した条件を人工的に作れる。照明は発光ダイオード(LED)を使い、昼夜も再現可能だ。夜はゆるやかに照度を落とし、月明かりの2倍程度にするという。水槽内の海水は毎日約10%を入れ替えるが、残りは循環・ろ過している。「掛け流し水槽に比べて運用コストが半減する」(虫明センター長)。海水はすべて紫外線で殺菌処理し、感染症の予防対策も講じる。