2019年8月23日(金)

「iPS細胞技術、患者のもとに」 山中教授講演詳報

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2012/12/8付
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【ストックホルム=安藤淳】2012年のノーベル生理学・医学賞を受賞する山中伸弥・京都大学教授の7日夕(日本時間の同深夜)の記念講演は、カロリンスカ研究所に集まった数百人の聴衆を魅了した。講堂はあふれかえり、大型スクリーンを据え付けた隣の講義室も満杯。最後はスタンディング・オベーションが起こった。主な内容を紹介する。

ノーベル生理学・医学賞の発表前日にあたる10月7日、カロリンスカ研究所のハリエット・ウォールバーグ―ヘンリクソン所長に京都で会った。私も参加した集まりの議長をしていた。終了後、「さようなら」と言うと彼女がウインクしたように感じた。その時は不確かだったが、いまは本当だったと確信している。

今回、ジョン・ガードン卿と共同受賞できたことをとても光栄に思う。ガードン卿こそが、細胞核の初期化を着想した。私が生まれた頃に彼が出した成果なしに、この場に私がいることは決してなかっただろう。ジョン、ありがとう。

まず、若い科学者だったころの話をしたい。私は2つの意味で極めて幸運に恵まれた。1つはまったく予想していなかった研究結果に出くわしたおかげで、まったく新しい研究に取り組めたこと。もう1つは、2人の偉大な恩師のもとで学べたことだ。

私は最初、整形外科医を目指したが、まったく適していないと自覚した。同時に、どんなに才能のある外科医でも治せない病気やけががあるのを学んだ。そこで、外科医から科学者へ転向した。

大阪市立大学の大学院では血圧制御を研究した。指導教官の三浦克之先生の仮説に基づき、ある物質を犬に投与した時に血圧は下がらないことを示す実験をした。外科医失格の自分に向いた簡単な実験だったが、予想に反し血圧は大きく下がった。興奮して三浦先生に結果を伝えると、彼も興奮してくれた。この現象のメカニズム解明が学位論文につながった。

その後、ポスドクとして米サンフランシスコのグラッドストーン心臓血管病研究所で指導教官のイネラリティ博士のもとで研究した。彼はコレステロール値を下げるのに重要とされる「APOBEC1」遺伝子に強い関心を持っていた。この遺伝子を肝臓で発現させるとコレステロール値が下がると仮説を立て、動脈硬化症の治療に使えるのではないかと考えていた。

そこで、肝臓でAPOBEC1を過剰に働かせたマウスを使い、この仮説を証明するよう指示を受けた。日夜懸命に取り組み、ある日の朝、マウスの世話をしていた技官が駆け込んできた。「多くの雄のマウスが妊娠している」という。混乱しながらも調べてみると、妊娠ではなく巨大な肝臓がんができていた。予想もしない結果だった。

APOBEC1は強力な発がん遺伝子で、治療に使うどころではないことがわかった。イネラリティ博士はがっかりしながらも、この遺伝子の研究を続けるように言った。私は心臓血管病研究所で肝臓がんを研究する唯一の研究者となったが、イネラリティ博士が研究継続を促してくれたのをとても感謝している。

私には2通りの偉大な指導教官がいた。1つは三浦先生やイネラリティ博士のように、自身の仮説に反する研究でも進めるよう言ってくれた本当の先生。もう1つは予想だにしない結果を突きつけた自然そのものだ。それが、まったく新しいプロジェクトへと私を導いた。2人のように優れた指導教官でありたい。とても難しいが、ベストを尽くすしかない。

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