働く女性を支える 「家事支援税制」の意義
塩崎恭久氏に聞く
Wの未来 やればできる
――家事支援税制を導入すべきだと主張しています。

「野党時代に自民党の野田聖子さん(現総務会長)を中心に子育て・女性支援策を議論した時、初めてその制度を知りました。政府税制調査会は家事費・家事関連費について『必要経費のように控除するのは適当ではありません』と定義しています。つまり『家事は所得を生み出すための必要経費ではなく、単に所得を消費する、国家にとっての消耗に過ぎない』としている。これはひどいということで気が付きました」
「家事支援税制は各国で取り入れています。子どもがいる場合といない場合にも適用するのがフランスとドイツ、子どもがいないと対象にならないのが米国と英国。しかし財務省主税局は『日本では児童手当や配偶者控除など他に手厚い子育て支援策がある』などとネガティブな想定問答を作っています。少額でも支援をして、国として働く女性を支える姿勢を示すことが大事です」
――制度に対する周囲の反応はどうですか。
「制度自体はいいと言ってくれますが、財源という問題にぶち当たります。その一点に尽きます。各国は年間2000億~3000億円ぐらい使っています。財源の捻出(ねんしゅつ)に何かを削らないといけません」
「目的をはっきりさせた支援を必要な人にするのが本来のあるべき姿です。現金を渡すと何に使われているかわからない、パチンコに使っているのではないかなどと言われます。支払ったものをベースに税金を安くする方が、正しい税の使い方じゃないでしょうか」
――財源の問題をどう解消しますか。
「児童手当の所得制限を下げて財源を作って、様子を見ながら支援を拡充していくのがいいと思います。手当てよりも明らかに支援する対象がはっきりしています。ただ高額所得者は自分で賄うべきです。所得制限を設けて、若い夫婦など頑張っている人たちを明示的に応援することが大事です」
「出生率が回復したフランスは模範とすべき国です。日本は米国に次ぐ『子育て支援を最もやらない国』と言われますが、家事支援税制はその米国でさえ導入しています」
米国(児童養育費税額控除) | 英国(勤労税額控除への加算) | ドイツ(家庭内サービスに係る控除) | フランス(家庭内労働者税額控除) | ||
主な対象世帯 | シングルマザー、共働き世帯など | シングルマザー、共働き世帯など | 全世帯 | 全世帯 | |
子の年齢上限 | 13歳 | 16歳 | - | - | |
主な対象費用 | ベビーシッター、ハウスキーパー、保育士、託児所 | 保育士、託児所 | ベビーシッター、ハウスキーパー | ベビーシッター、ハウスキーパー | |
控除 | 割合 | 20~35% | 70% | 20% | 50% |
上限 | 21万円 | 166万円 | 52万円 | 98万円 |
――日本の家庭でベビーシッターは普及しますか。
「女性が働くときに問題になるのは、誰が家で子どもの面倒を見てくれるかということです。子どもが熱を出したら母親が幼稚園や保育園に迎えに行くことが多いですが、それでは働いていられません。病児保育では隔離した部屋を作るなどお金がかかります。いったん自宅に帰ったけれども子どもの病状がたいしたことなければ、ベビーシッターに見てもらえれば会社に戻りやすくなります」
「少子高齢化で子どもだけではなく高齢者の介護も必要です。そういう点も含めて家事を支援するのは働く人にとっては大事です」
――こうした制度の導入に力を入れる背景には、何かご自身の経験があるのですか。
「私が米ハーバード大に留学した際はキャンパス内にある家族も入れる寮があり、1階はすべて保育園でした。日本の大学にはありません。高校時代にも1年間、米国にいて、当時、週末に近所の夫婦が出かける時のベビーシッターをアルバイトでやりました。日本の親からは1ドル360円の時代に月14ドルの小遣いをもらっていました。そんな時代にアルバイトで4時間で2ドルもらえたのは大きかったです」
「日本でプロのベビーシッターに頼むと、ものすごく高額です。高すぎます。財務省は『ベビーシッターの値段が高いのが悪い』と言ってきましたが、ビジネスとして普及させて安くすべきです」
(聞き手は坂口幸裕)
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。