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銀座・北新地…0時に解けるアベノマジック

夜の街角100人調査 景気「良い」15%

午前0時過ぎの銀座、終電間際の駅へ人々が流れ込む(東京都中央区)

すしやフレンチといった高級料理、キャバクラなどの接客サービス。万円単位のお金が飛び交う夜の歓楽街は、景気を映す鏡だ。東京・銀座、大阪・北新地、名古屋・栄。日本を代表する歓楽街で計100人に景況感を聞いた。アベノミクスの効果が見られるのは一部の高級店に限られ、シンデレラのように午前0時になると魔法が解けてしまう――。浮かび上がったのは回復途上の街の姿だった。

「お任せでお願い」。メニュー表を差し出そうとする店員に、客が間髪入れず注文する。北新地の焼肉店「福や」は「お任せのお客さんが全体の半分にまで増えています」(竹下弘行社長)とほくほく顔。ヘレ肉の最上級シャトーブリアンなども含み、1人8千~1万円と通常より2千~4千円高い豪華コースだ。

中華料理の赤坂璃宮・銀座店では「『1人いくらからできますか』と安いプランを聞くお客様が減りました」(佐野由美子・営業本部長)。同店のコースは約1万円からだが、一段上の約1万2000円、約1万5000円を選ぶ客が2~3割を占めるようになった。

しかし、アベノミクスの効果は一部の高級店にとどまり、多くの接客業、タクシーにまでは至っていない。中・上級の飲食店、クラブ・キャバクラなどの接客業、タクシーの3業種を対象に計102人に実施したアンケートで、現在の景気が「良い」と答えたのは15%どまり。39%はまだ「悪い」と感じている。

飲食店で「良い」と答えたのは38店中9店で24%。これが接客業は33店中5店で15%、タクシーに至っては31人中1人で3%に落ちる。つまり、利用する時間帯が遅い業種ほど、景況感の回復も遅れている。

銀座の象徴のひとつ、和光の大時計が0時を指す頃、地下鉄の入り口に人波が吸い込まれていく。高級ブランド店が軒を連ねる中央通りのタクシー乗り場には、約400メートルの客待ちの車列。「人が出てにぎわっているように見えるでしょ。でも終電が行った後は潮が引くんだよ」。ある運転手(48)はあきらめ顔だ。

栄では0時近くになると、タクシーに酔客が次々乗り込む。しかし行く先は、わずか2キロ先の名古屋駅。「リーマン・ショック前は片道1万円弱の郊外までよく運転したのに。今は1000円の名古屋駅行きばかり」(37歳の運転手)

食事してクラブをハシゴ、さらにタクシーで帰宅。そんな「夜のフルコース」復活はまだ遠い。栄のあるキャバクラは「ボトルも入れず1時間1セットで帰る客がほとんど」(店員)。1割以上の減収が続く銀座のキャバクラのオーナー(35)は「店と店を客が行き来しない。限られたパイを細かく分けている感じ」とこぼす。

同伴出勤で北新地のクラブに入店する男性(大阪市)

0時で帰る「シンデレラ」を真っ先に確保しようと、店は必死だ。「『店前(みせまえ)同伴でいいからお願い』と、なじみのホステスからヘルプメールが届くんです。ちょっと困るぐらい多い」(自身も北新地で飲食店を経営する50代男性)

普通の同伴はホステスがお客と食事や買い物をし、在籍店が開く8時ごろに一緒に出勤する。対して店前同伴はその名の通り、クラブの目の前で待ち合わせて入店する。月10回近くの同伴ノルマを課す店もあり「未達の罰金が高くなったと愚痴るホステスは多いです」(ある美容室)。店前同伴ならお客に食事費用の負担をさせず、自分の店に連れ込めるというそろばん勘定がある。

夜の街は企業の交際費にも左右される。栄の中心、錦地区はトヨタ自動車と取引業者の接待利用が多い。高級クラブの支配人(76)は「自動車が風邪を引けば錦が風邪を引く」と円高是正による業績回復に期待する。あるラウンジのママは「『錦禁止令』が緩んだのか、4月からトヨタ社員の姿が増えました」と話す。

繁華街に並ぶ客待ちのタクシー(名古屋市)

一方、銀座の夜に身を投じて32年というママ(61)。客の平均年齢は60歳に達し、リタイア組がほとんど。「午後3時から1人5000円飲み放題で」といった無理な注文も増えた。経費が抑えられる中で「異動の時に後任を連れてくることも減って、若い人へのつながりが消えちゃった」。

安倍政権は13年度から中小企業を対象に、交際費を年800万円まで全額、税のかからない損金に算入できるようにした。ただ、一度減らした接待がどの程度回復するか。銀座社交料飲協会の神谷唯一事務局長は「お酒と共にあうんの呼吸で大きな契約も決まる。日本経済を回すひとつの歯車と考えてほしい」と話す。

(消費産業部 石森ゆう太、阿曽村雄太、高橋徹)

PHOTO SHOT 夜の街角景気

クラブなどにおつまみを配達する銀座チャームのサービスは、前年同月比で1割増収ペース(東京都中央区の銀座プラネッツアクア)
歓楽街のビルの一室にあるカクヤスの「ワインセラー銀座」。クラブなどから高級ワインの注文が増えている(東京都中央区)
北新地の客数は最悪期を脱しつつあるものの、最も多かったバブル期の4分の1程度にとどまる(大阪市北区)
客単価1万円程度のラウンジは経営が厳しく、ママの営業でなんとか前年並みの売上高を確保している(名古屋市中区)

写真=小川望、沢井慎也、橋本純、吉川秀樹

【詳細は日経MJ2013年4月24日号に掲載】

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