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コンテンツの魅力でO2O競う 出版社、ネット専業に対抗

 有力出版社がインターネット関連事業を収益の柱に育てようとしている。スターツ出版は女性向け情報サイトで大規模イベントなどを開催し、美容やグルメの実店舗への送客を拡大。ハースト婦人画報社(東京・港)は京都に特化した専用サイトを立ち上げ、物販や旅行予約も絡めたビジネスを始めた。ネット経由でリアルの消費を喚起する「O2O(オンライン・トゥー・オフライン)」が広がる中、独自のコンテンツ力や編集力で差別化を図る。

「女子会」で美容手ほどき

7月末、東京都内の高級ホテルの数フロアを借り切ってスターツ出版が主催のイベント「美女子会」が開かれた。集まった約500人の女性参加者のお目当ては、美肌やネイルの特別講習会やヘアオイルの体験コーナー、美容食材を使ったディナーなど。講習会では一流スタイリストの話に熱心に耳を傾け、ディナーに舌鼓を打っていた。

友人と会場を訪れた会社員、宮腰杏奈さん(30)は「きれいになるためのコツが詰まっていて、楽しいしためになる」と話し、別の会社員の女性(24)も「プロの話を聞くと新しい発見がある」と笑顔。彼女らはいずれもスターツ出版が手掛ける女性向け情報サイト「オズモール」のヘビーユーザーだ。

同サイトは1996年に女性誌「オズマガジン」のネット版として開設されたが、現在では情報配信だけでなくサロンやレストラン、各種イベントの予約サイトが柱に成長。登録会員は約185万人、同サイト経由の利用額は年間100億円に上る。同社の荒武祐子・オズモール推進部編集長は「女性に寄り添い、リアル感動体験を提供する」と強調する。

足元で強化しているのが「リアル」と連動したイベントの展開だ。美容や恋愛をテーマに年間100本以上を開催し、店舗や施設のPRと送客を促進する。6月には美容に特化した企画「OZ BEAUTY College」を開始。600店超のサロンと組み、美女子会のような大型イベントやセミナーを通じて20~30代の女性を中心に訴求を図る。

掲載店舗の選出やイベントの開催にあたっては、雑誌の編集経験が豊富な担当者らが情報を収集して企画。画像を多用した紹介の仕方やキャッチコピーの考案、利用者目線の評価なども雑誌編集のノウハウが生きている。「消費意欲が旺盛ながら評価がシビアな女性消費者の期待に応えるには、内容の信頼性を高めることが不可欠」(荒武氏)

 オズモールがけん引し、同社の2013年12月期の業績は売上高が前期比12%増、営業利益が31%増の見通し。今後は会員ごとにお勧め情報や店舗を紹介する「レコメンド機能」を強化したり、婦人科検診の予約を導入したりと新規施策も計画する。

スマートフォン(スマホ)経由の利用が広がっていることから、専用サイトの作り込みも進め、より手軽に使えるようにもしている。

京都にこだわり、旅行や物販も

美容と並んで女性らに人気の高い旅行では、老舗雑誌「婦人画報」を手掛けるハースト婦人画報社が新機軸を打ち出している。同社は6月末、京都の歴史・文化や料理、催事などに特化した専用情報サイト「きょうとあす」を開設。婦人画報のコンテンツと連動した情報発信とともに、現地やネット上での消費を生み出す仕掛けだ。

特徴はプランニング、現地での案内、旅行後のフォローまでを含む一貫サポート。サイトのコンテンツは毎日更新され、季節ごとの催事や関連する歴史などを随時紹介。婦人画報の過去10年分のデータベースから有名な料亭や寺社も検索でき、計画を練るのに役立てられる。スマホ向けサイトもあり、現地で地図を確認しながら目的の場所を訪れるのも簡単だ。

実際の旅行にあたって予約やネット通販の機能もある。予約ではKNT-CTホールディングス傘下のティー・ゲート(東京・千代田)と提携し、「いちげんさんお断り」の料亭のコース料理や、「五山の送り火」を眺めながらゆったりできるホテルなど独自のプランを提案。物販ではカタログギフト大手のリンベル(同・中央)と組み京都の名品を販売する。各専門企業のノウハウも協業によって生かす狙いがある。

サイトの運用にあたっては京都市産業観光局とも連携。行政に仲立ちしてもらうことで現地での営業や取材協力をスムーズに進められる体制も構築した。

 行政側にとっても優良コンテンツを抱える出版社と組むメリットは大きい。きょうとあすの笠原久・ビジネスディレクターは「婦人画報で培ったコンテンツ力と利便性の高いネットサービスを組み合わせることで、京都ファンの開拓や取り込みを狙う」と話す。

サイト開設と連動して京都特集を掲載した婦人画報の8月号は通常の約2倍の売れ行きを記録するなど、紙媒体との相乗効果も出始めている。コンテンツや取扱商品を拡充し新規顧客の開拓を急ぐ考えだ。

客層絞り強み発揮

出版科学研究所(東京・新宿)によると、2012年の書籍・雑誌合計の推定販売金額は前年比3.6%減の1兆7398億円で、8年連続の前年割れ。電子書籍が注目の的となっている出版業界だが、物販やイベント運営など本業以外の新たな収益源の確保は大きな課題となっている。

とはいえ、ネット専業の壁は厚い。物販ではアマゾンジャパン(東京・目黒)、旅行予約では楽天トラベルなど幅広い商品を集め全方位的に顧客を取り込める企業が存在感を高めている。差別化には的確な顧客分析と囲い込みが欠かせない。

例えばスターツ出版では、オズモールの会員の標準的なモデルを「年齢29.8歳、年収は350万円で親と同居している独身女性。自由に使える金は月額8万円」と分析。効果的な企画の立案などに役立てている。さらに「首都圏での顧客予備軍は300万人。全方位で働き掛けるのではなく、あえてきめ細かく会員を開拓する」(同社)と説明する。

ネット消費へのシフトが進む状況では、今後IT(情報技術)人材の活用も焦点となる。ハースト婦人画報社はシステム運用の専門担当者を新たに配置した。出版社が業態を超え小売りや旅行会社と連携する動きも今後広がりそうだ。

(河野祥平)

[日経MJ2013年8月28日付]

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