対話で輝くラジオの魅力 小島慶子さんに聞く
震災で存在感、生きることの曖昧さに光
ラジオを巡る環境が大きく変化している。昨年12月にインターネット回線を使い、パソコンやスマートフォン上でラジオが聴けるサービス「ラジコ」が登場。また、震災以降、信頼できる情報源としても存在感を高めている。小島慶子さん(38)は昨年、テレビ局のアナウンサーからラジオパーソナリティーに転身。機転の利いた会話と温かい語り口で、幅広い聴取者の支持を得る。小島さんにラジオの魅力を聞いた。

★正解より問いを

「ラジオは表現の手段が音声に限られるゆえ、会話を大切にするコンテンツが長くはぐくまれてきた。その会話を重視する"ラジオ的コンテンツ"が好きだ」
「生きるというのはあいまいさに耐えるということ。どんな問題にも白と黒、両面がある。メディアを通じて情報を出す時、正解を提示せねばと考えがちだが、現時点でそれができないことも多くある。それに対し、データと見解と生活者の実感を提示し、『あなたはどう思うか』『あなたならどうするか』と問う」
「そのあいまいさと向き合うことを、ラジオは昔から得意としてきた。忘れられかけていたその特性が、震災をきっかけに多くの人に再認識された」

「こんな言葉や言い回しを使えば聞いてもらえる、という分かりやすいものはない。どんなありふれた言葉でつづられていても、そこになにがしか、一緒に生きていこうという差し出された手の存在を感じるものがあれば、不思議と共感を呼ぶのではないか」
「テレビがダメでラジオがいいという訳ではない。ただ、ラジオというメディアの中に高濃度で含まれている、人と人がつながる喜びや、会話を大切にする面白さ、チャレンジしがいのある場作りみたいなものを一生のなりわいとしていきたい。そのラジオ的コンテンツを通じて、1人でも2人でも励まされたり笑ってくれたりしたらうれしいし、それが私にとって居心地がいいということ」
★ツイッターを活用

「ポッドキャストは、まるでネット上にまいてある"ラジオの入り口"。かつては家の中にラジオがあり、兄弟など年長者に面白い番組を教えてもらって、聞き始めるというケースが多かった。でも今はラジオの受信機が普及しておらず、ポッドキャストで音源として聴く。それがラジオなのか、ユーストリームから取った音源なのか関係なく面白い話があることに気付く。そして、続きが聴きたくてラジオを聴くようになる人はいっぱいいる」
「ラジコで聴取環境が良くなり、仕事をしながら聴いているという人にも良く出会う。スマートフォンで聴くのか、学生さんもよく番組にツイートしてくれる」
「地域の生活情報を細かくフォローして出せるコミュニティFMなど、ミニコミサイズのメディアは生きていくためのインフラとなり、絶対に必要。資金面の援助も含めたバックアップ体制が欠かせない」


VERYでは、1ページのみのエッセーが読者アンケートで常に上位に入る人気コンテンツに。担当編集者の米山淳氏は「読者がうすうす感じていることをずばりと言ってくれ、すかっとするようだ」と理由を分析する。3月には自著「ラジオの魂」が、6月には番組を特集した書籍が相次いで刊行された。
「会社を辞め、アナウンサーも廃業したという意味で、ラジオパーソナリティーを名乗っているが、『会話の場を作る』のは、ラジオでなければできないわけではなく、文章でもテレビでもできること。私の文章は非常にラジオっぽいし、テレビにも同じ気持ちで臨んでいる。『私はこう思う。では、あなたはどう思いますか』と」
(松本史)
〔2011年7月6日付日経MJ「ブームを語る」に掲載〕
関連企業・業界