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薬ネット通販 サービス磨く、テレビ電話・チャット駆使

 一般用医薬品(大衆薬)のインターネット販売を認める改正薬事法の6月施行を見据え、ネット通販業者やドラッグストアなどがサービスを強化している。アスクルはヤフーと共同展開するネット通販「ロハコ」で、チャットやテレビ電話で顧客に対応。ウエルシアホールディングスは店頭での買い方を意識した通販サイトを展開している。配達時間の短縮など消費者の利便性を高めるサービスを磨く動きが広がりそうだ。

アスクル、相談体制を強化

「どのような症状が出ていますか」。2月上旬、埼玉県三芳町にあるアスクルの物流センター「ロジパーク首都圏」内の薬局「ロハコドラッグ首都圏」。女性の薬剤師がテレビ電話で顧客の相談を受けていた。利用者はスマートフォン(スマホ)のアプリでテレビ電話を使えるため、実際に患部などを見てもらって、薬を提案してもらうこともできる。

アスクルは昨年末に相談体制を新たに設けた。利用者が電話やメールだけでなく、テレビ電話やチャットでも相談できるようにした。東京と大阪の2店舗に常駐する6人の薬剤師が交代で、午前10時から午後10時まで相談を受けつける。同社の吉岡晃取締役は「ネットでも相談しながら薬を買えるようにした」と話す。

2月上旬の別の日の夜、実際にチャットで相談してみた。まず「喉の調子が良くないのですが」と入力。すると「具体的な症状を教えて下さい」と返信がきた。すぐに「痛みはないですが少しせきが出ます」と打ち込むと、そのほかの症状について質問が戻ってきた。

1回の入力の返信にかかる時間は1分弱。やりとりはもちろん会話ほどはスムーズではないが、ストレスになるほど反応を待つことはない。現在服用している薬がないかどうか確認された後、「せき止め薬はどうでしょうか」との回答とともにURLが表示された。URLをクリックするとロハコのサイトの商品紹介ページに移り、薬の価格や用法などがすぐに確認できる。そこから「カゴに入れる」をクリックすればすぐに買うことができる。

すべてのやりとりは大きなつまずきもなく10分程度で終了した。チャットは匿名で連絡先も入力せずに利用できるため、相談しやすさを感じる。電話で商品を提案されてもイメージは難しいが、すぐにサイトで確認できる点も便利だ。「当初の想定よりも利用する人が増えている」(アスクル)という。

現在、ロハコでは通常のドラッグストアの店舗よりも多い2900品目を取り扱う。毎日服用するビタミン剤などサプリメント(栄養補助食品)のほか、育毛剤や下剤など消費者が店頭での購入に抵抗感を持ちやすい商品が売れている。

 薬剤師と利用者のチャットのやりとりのデータがたまれば、マーケティングへの応用も期待できる。症状や薬の種類などを含んでいるデータを分析すれば、ある薬がどのような症状の人に販売されたかなどの傾向が具体的にわかるようになるためだ。製薬会社などに提供すれば、新しい薬の開発につながる可能性がある。

ロハコでは、症状や不調の部位をイラストから選んで症状にあった薬を表示するサービスも提供している。不調の部位や症状などは最大3つ選択できる。持病やアレルギーの種類の指定もでき、それらを入力して薬を検索できる仕組みだ。

複数の薬を買う場合の飲み合わせを注意喚起する仕組みも設けている。アスクルは薬のデータベースを持つ医療情報サービス会社と連携して、複数の薬を購入する場合のチェック機能も用意した。

データベースは1万4000品目の薬について、成分や効能、添付文書などがまとめられており、それぞれの成分を照合。効き目を必要以上に強くしてしまうような薬同士を購入しようとした利用者に注意喚起する。

配達時の安全性にも配慮した。ロハコで販売している薬は、ほかの日用品などと同時に買えば、一回の配達で届けてもらうことができる。薬と日用品を同じ箱に梱包する場合は、薬であることが分かる特製のビニールに薬を入れ、子どもが誤って手にしないようにしている。吉岡取締役は「安全に薬を買ってもらうことを前提に独自に取り入れた」と話す。

ウエルシア、症状別表示で選びやすく

ドラッグストアのウエルシアホールディングスが運営する通販サイト「ウエルシアドットコム」。症状ごとに薬を表示して、利用者が自分の症状にあった薬を選びやすくしている。

例えば、風邪であれば「熱やのどの痛み」といった症状から薬を選ぶようにする。風邪といっても症状によって薬は異なるため、サイトに羅列してある風邪薬を利用者が選び出すのは難しい。そこで、ドラッグストアなどの店頭で多い相談をもとに薬を分類して、サイトに表示している。

薬のパッケージを拡大してみられる機能もある。サイト上では店頭と異なり手にとって確認することができない。用法や用量を詳しく見て購入できるようにした。サイト運営子会社のウエルシアプラス(埼玉県伊奈町)の和田大作代表取締役は「消費者がお店で買う時の行動を考えたサイトにした」と強調する。

ドラッグストア最大手のマツモトキヨシホールディングスが今春にも都市部を中心に翌日配送を始める方向だ。イトーヨーカ堂も昨年11月からネットスーパーで注文から最短4時間で配達するサービスを始めた。配送時間の短縮競争も今後は激しくなることが予想される。

相次ぐ参入、「第2類」価格下落目立つ

大衆薬のインターネット販売が実質解禁となった2013年1月の最高裁判決を受け、大手小売りや中小薬局による参入が相次ぎ、競争が激しくなっている。

昨年春にはイオンがネットスーパーで解熱鎮痛剤「バファリンA」など比較的副作用リスクのある第2類医薬品の販売を始めたほか、13年7月にはドラッグストア最大手のマツモトキヨシホールディングスも通販サイトで取り扱いを開始。同年9月にはアマゾンジャパン(東京・目黒)も自社サイト内に出品している店舗が取り扱う形で参入した。

大衆薬の市場規模は現在、小売りベースで約1兆円にのぼる。なかでも、第2類の市場規模は約6400億円で最も大きく、副作用リスクの低い第3類に加えて、第2類の扱いを広げる事業者が増えている。電通総研は、大衆薬のネット販売は将来的に、最大2400億円規模に拡大すると試算している。

競争の激化に伴って大衆薬の価格下落も顕著だ。第2類の総合感冒薬「パブロンS錠(70錠)」は都内繁華街の実勢価格よりネットの最安値が2割以上安い。購入ルートが増えることで、消費者への浸透も進みつつある。

一方で、アマゾンジャパンは13年中に予定していた利用者への直接販売がまだ始められていない。店舗を持っていないために、行政の販売認可が下りていないためだ。新規の参入が活発にならないと、消費者にとってメリットとなるサービス競争が停滞する可能性もある。

(名古屋和希)

[日経MJ2014年2月12日付]

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