/

「松竹梅」なら思わず竹 消費者くすぐる販促の極意

なぜかウナギが無性に食べたくなった。うなぎ屋ののれんをくぐって席に着く。メニューをみると、うな重には松、竹、梅とある。もちろん松が最も高く、梅は安い。「さて、どれにしようか」。ほんとうは松が食べたいが、口から出たのは「竹ください」――。そんな経験をした人は多いのではないか。なぜ、人は真ん中を選びがちなのか。消費者の心理を探ってみた。

選択肢が3つに増えると…

竹を選ぶ人が多いのは、松はぜいたくだけれど、かといって梅を頼むのは何となく格好悪いという心理も働いているかもしれない。また、外食業界に詳しいコンサルタントによると、うなぎ屋などの店側も、「竹」を基準に原価計算してから値段を決める傾向があるという。

これをもっと科学的に探ってみると、参考になるのが米国で行われた実験だ。まず性能が良く、価格も高い順からA、B、Cの順で並べた同一メーカーのカメラ3台を用意。約100人に対し、最初はAとBのいずれかを購入したいかを聞いたところ、半分ずつに回答が分かれた。次にCを加えて3種類の選択肢を設けたら、A22%、B57%、C21%という割合になったという。性能・価格が真ん中のBが過半を占め、まさにうな重の竹を選ぶ人が多いのと同じ結果となった。

「上幕の内」で売れ行き78%増

これはマーケティングの世界でも盛んに取り上げられるようになった行動経済学で、「フレーミング効果」と呼ばれる現象だ。フレーミングのフレームとは「枠」や「枠組み」を意味し、ある枠組みで意識が固定されると、それを覆すことが難しくなるというものだ。設問の仕方で、意思決定が影響される心理的傾向があるとも言え、A(松)とC(梅)という枠がはめられることで、B(竹)を選んでしまうという訳だ。

「オリジン弁当」を展開するオリジン東秀は昨年9月、1種類だった幕の内弁当を3種類(450円、上490円、特上690円)に増やした。やはり490円の「上幕の内」が一番の売れ筋。フレーミング効果に加え、40円の違いでサケの切り身が乗るお得感や「上」という響きも消費者心理をくすぐり、2月の幕の内弁当の売れ行きは前年同月に比べ78%増と好調だ。

「○○%引き」より「ズバリ価格」

フレーミング効果とは、同じ内容の情報や事実であっても、表現の仕方を変えることで、消費者の受け取り方が大きく変わる現象と言い換えることもできる。

例えばセブン―イレブン・ジャパンがよくやる「おにぎり100円均一セール」は、「おにぎり○○%引き」よりも販売促進効果があるという。特におにぎりのような少額な商品では割引率を表示するより「ズバリ価格」が有効だとされる。

また割引率の表示でも、歯切れのいい表現の方が効果的だ。1990年代後半から2000年代初めに「半額ハンバーガー」を仕掛けた日本マクドナルドの戦略も同様。当時の藤田田社長が「50%引きより『半額』の方が消費者に響く」と言っていたのを思い出す。

閑古鳥が鳴いていて閉店を余儀なくされた百貨店でも「閉店セール」は常に混雑する。普段はその店をあまり訪れないのに、「百貨店はよい商品を扱っている」という固定的な意識を持つ消費者がおり、「良い商品が処分価格で買える」という期待が膨らむからだ。

宝くじでも行動経済学の知見が生かされる場合がある。「グリーンジャンボ史上最高! 1等・前後賞合わせて5億5000万円!」と銘打って先週まで販売されたグリーンジャンボ宝くじ(予定発行枚数は1億7000万枚)。サイトなどには「億万長者が最大51人誕生」と書かれていたが、「1億円以上の当選確率は約333万分の1」という表現ならどうだろうか。後者のような表現だと、宝くじを買う人は少なくなるかもしれない。

不合理な心理に消費のヒント

行動経済学は2002年に米国のダニエル・カーネマン博士がノーベル経済学賞を受賞したことで一躍脚光を集めた。心理学の影響を大きく受け、これまでの経済学が常に人間は合理的に行動するとされてきた前提を疑い、時に非合理的な行動をする人間を理解しようとするもの。

今回紹介したフレーミング効果のほか、最初に提示された数字が基準になって、その後の判断(高いか安いか)に影響を及ぼす「アンカリング効果」などが知られている。消費が多様化し、消費者の購買心理をつかむのも難しい時代。こうした消費者の心のクセを理解することが企業間競争に勝ち残る一つの要素なのだろう。

(消費産業部次長 白鳥和生)

「消費を斬る」は原則、毎週火曜日に掲載します。

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

消費を斬る

話題のヒット商品やトレンドの背景を専門記者が最前線の取材から分析、「今なぜ売れるのか」「次の流行は何か」を解き明かします。

関連トピック

トピックをフォローすると、新着情報のチェックやまとめ読みがしやすくなります。

関連企業・業界

セレクション

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン